第115話 戦力差

 闇龍の迫る大軍の先で先兵を迎え撃つのはたった三人。

 アイネ。アスタルト。アガレス。

 この三人で二万と言われている闇龍軍を引き付ける、それはアイネの作戦。


 アイネは瞳を閉じて、エナジィを高め始めた。

 アスタルトとアガレスは何かを言い合っている。


「え? 聞こえない。こんなにうるさいと……で、何か用か……アスタルト」

「何? 声が聞こえない、アガレス。もっとでかい声で言え!」

 まるで滝のように高く頭上から崩れるように、真っ黒な大軍が降りて来る。

 それは坂の途中で雪崩のように、分離して三人を押しつぶそうとしていた。


「思ったより数が多いな。それに仲間の声が聞こえない。これじゃ、作戦どおりに戦闘など出来ないぞ」

 両手をちょっと上げて、お手上げのポーズ取ったアガレスと、アスタルトの二人の目前に、闇龍軍団の先陣が真に迫った。


 その時、白銀軍団全員の頭の中に、エンジェルナイトのフッラの声が、頭の中に直接に響いた。


「予定の高度に達しました。通信ポート開放完了。通信範囲は戦場全体の味方の軍とします。これよりブロードバンド通信を開始します」

 フッラの通信が直接に味方の脳に送られ、騒音を消し去った。

 周りの騒音から解放されたアガレスとアスタルト。


「おお、よく聞こえるぞ。アガレス、お前の声も!」

「うむ、アスタルト。これがエンジェルナイトの技術なのか?」


「アガレス、アスタルト……暴れてくれ。おもいっきり。魔法の詠唱時間をくれ」

 普段より良く聞こえる、アイネの声に振り向く二人。

 ガハハと戦場で豪快に笑う二人。

「しょうがないな!」


 アスタルトがその場から消えた、縮地だ。

 一瞬でアスタルトはアイネの前に出ると、斬り掛かった兵士を二、三名、まとめてぶん殴る。拳の速度はどんどん上がっていく。


 あとから押し寄せる闇龍軍団にカウンタを駆使し、獣人特有の無意識の反応で敵を弾き飛ばしているアスタルトが、突然大きく空中へ飛んだ。


「おいアガレス!」

 足下をアガレスのソウルイータがかすめ、唸りを響かせて大地を一閃! 半円を描いた衝撃波が、敵陣の奥へと軍勢を薙ぎ払いながら進んでいく。


「アガレス! あぶねーな。オレのハクセイができるぞ」

 アスタルトが空中でクルっと廻りながら言った。


「ふん!」

 大剣を大きく返して、二度目の巨大な衝撃波を、地面が真っ黒に見るほどの大群へ打ち込むアガレスが口元を緩ます。


「ちょっとだけ、外れたな」

 軽やかに大地に降り立つアスタルト。二メートルを越す獅子が笑う。

「ガハハ……残念だなアガレス。オレのハクセイなら高く売れたのにな」


 地上に降りたところに攻め込んできた闇龍軍に、力を込めたアスタルトの無数の拳が打ち出される。


『獣王百烈拳』

 アスタルトを中心に、数十人が外へと弾き飛ばされる闇龍軍団。

 

 二人が守るアイネのエナジィが、最大に高まっていく。

 天空に稲妻の筋が数百と繋がり、大地と空からとてつもないエナジィが集まる。

 目を開いたアイネが右外へと手を空にかざした。

 力の循環が始まり空中に巨大な魔法陣が描かれる。

 大地から空の上から、稲妻が上下に走り魔法陣に吸い込まれていく。

 アイネは掲げた右手を闇龍軍団へ向けて、その力を放った。


『ライトニングプレジャー』

 数千もの巨大な稲妻が、闇龍軍団に降り注ぎ、百人近い兵士達が倒れていく。


「さすがだな。エール騎士団の麒麟児。そしてマスティマも力を貸しているのか」

 アイネの表層にに出ている、マスティマのエナジィを感じたアスタルトは、アガレスと共にアイネの前に戻って、強力な魔法を打ったアイネのクールタイムを守る。


 アイネの横で二人が構え終えた時に。上空のフッラから敵の情報が響く。

 その報告にアイネが率いる一万の軍は沈黙した。絶望的な現状。

 

「敵の分析が完了しました。敵の総数は十二万六千二百五十六名。我が軍の十倍以上です」

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