第114話 大戦開戦

 竜の国ドライグの封印された神殿を見る丘に、集結した闇龍軍団の趣きは様々だった。赤龍王の残存軍には人間、獣人、魔術師、竜騎士。闇の国の軍勢にはモンスターと魔法で操られるゴーレム、闇龍ナイトなど多種多様。


 闇龍軍勢はぐるりと。アイネ達が籠る封印された神殿を取り囲んで、白銀軍団、アイネたちを待っていた、その数は地上からでは数えきれない。

 もうすぐ戦闘が始まる、その時に、響いた声に、仲間も敵も問わずに立ち止まった、美しく凛とした声はアイネのもの。


 ジャンプで飛んだ神殿の入り口に立つアイネ、左右にアガレスとアスタルトが付き添う。

「私は白銀軍団の司令官アイネである。理が解る者と命が惜しい者は、すぐにこの場を立ち去れ。それ以外の者は命を懸けて向かってこられよ!」


 アイネはエルヴンソードを鞘から抜き、高々と頭上に掲げた。

 大戦の幕開けをアイネが発し、戦場全体へ伝わり、まずは軍のリーダーのアイネを潰すために、闇龍の一軍が速度を集めて移動を開始した。


 最速で移動する部の、闇龍軍団の指揮官が叫ぶ。

「殺せ! 総司令官はあそこだ! アイネ・クラウンを殺せ!」


 闇龍軍団が一斉に、アイネへ向かって走り出した。


 ド、ド、ド、ド、ド。ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ。


 地面が鳴り、つむじ風を起こし、土砂と共に、黒い津波のように、闇龍軍団が押し寄せて来る。砂埃と轟音でアイネたちの姿が見えなくなる。


「フッラ、今だ! さあ行け!」

 わざと注意を引いたアイネの声で、大地を蹴り、空へ飛び出すフッラ。

 上空より戦況を詳細に把握するための大きな飛行を試みる。

 それを見た闇龍軍団の指揮官が言った。


「飛び上がった者を狙え! あれはエンジェルナイトだ、ほっておけばこちらの情報が洩れてしまう」


 ザシ、ザシ、ザシ。軍の後衛の弓兵隊が千の弓を構えた。


「撃て!」

 シュス、シュシュ。千の弓矢が放たれ、空中を急上昇するフッラを追撃する。


 最先の弓矢がフッラに迫り命中したと思ったその瞬間、地上から流れる緑の風、

 分身したアガペが、フッラに迫った弓矢を全て弾き飛ばした。

 ドラゴンウォーリアを確認した闇龍軍団は、目標を変える。


「くっ。ドラゴンウォーリアか。手ごわい敵だ、あの赤龍王を倒した勇者バアル。このままではエンジェルナイトを捉える事は出来ない、まずあの翠の竜から撃ち落とせ!」


 狙いをアガペに変える弓兵。意図通り、自分に注目を移させたアガペは、ニヤリと笑い、空中でストームブリンガーを構える。


「翠の龍を撃て!」

 敵の指揮官の声と同時にバアルが叫ぶ。

『風よ敵を刻め ラ・ウィンドウスラッシャー』

 鋭い旋風を起こしながら、空中からバアルの剣が地上に打ち出され、緑の風が大地を覆い尽くし、弓兵隊は巻き上げられる。それを見たフッラは翼に力を込め、もう一段高く上へと飛んだ。


 弓矢が届かない所まで上昇したフッラを確認すると、アガペはアイネの方を見た。

 大波の様に押し寄せて来る闇龍軍団。

 土埃で太陽が見えなくなった大地で、アイネと獣王、暗黒騎士が迎え撃つ。



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