第113話 アイネの心

 初戦に選ばれた猛者を集めて、連合軍のアイネ・クラウンが戦略を述べた。


「作戦を説明する。そのまえにバアルはいるか?」

「は、はい。アイネ……総司令」

 急に名前を呼ばれたバアルが慌てて返事をした。


「忠告しておく。おまえは先の戦いで大竜のエナジィを得て赤龍王を倒した。強い力は自制できなければ本当の力では無い。おまえが力に溺れ大竜のエナジィにより世界を乱せば、前任のドライグのスペツナズである、赤龍王モートと同じ過ちを起こしたならば、私がおまえの翠の竜を切り裂く。例えこの戦いに勝ってもだ。分かったな?」


「はい、忘れぬようにします」

 バアルはこの大陸を守る義務を果たそうとするアイネに、自分の胸に手を置き龍としての正式な礼を持って答えた。


 アイネはバアルの真摯な対応に納得し、全員へ指示を与ええる。

「これより作戦を開始する。私とアスタルトとアガレスは、正面へ向い敵の注意を引く」


 嬉しそうにうなずく、アスタルトとアガレス。

「戦いの花は一番槍だな。まあ、俺もおまえも槍は持っていないがな!」

 アスタルトの言葉で、大笑いするアガレス。


 反対に緊張するバアルとサージに、作戦指示を一旦中止してアイネが語りかける。

「バアルとサージ。このような大軍での戦いは初めてだな?」

「は、はい」

 アガペとサージが同時に答えた。

 二人の手は微かだが震えている。


 アイネは二人の側に近づき、普段の言葉で話しかけてきた。

「安心してください。私も初めてですよ」


 二メートルもの巨躯である二人は、幼き少女のような表情の総司令官を見た。


 アイネは二人の手をとり静かに言った。

「分りますか? 私のエナジィが乱れている事が。すごく怖いのです」

 顔を見合わせるアガペとサージは思った、今までのアイネ・クラウンを見ていて、怖いなど微塵も感じていないのでは……と。


 いいえ、二人の手をとるアイネが答えた。


「自分だけの戦いではないのです。私たちが間違えば仲間が死にます。それも大勢ですよ。怖い、自分の命では償えないものだから……」


 心境を話した後は、二人の顔を見て静かだが、力強くアイネは戦いへの意思を伝える。

「私たちなら必ずやれます。だから一緒に行きましょう。バアル、サージ」


 アイネの手の温かさと決意に、勇者バアルと団長サージの手の震えは止まっていた。

 聞こえてきた豪快な笑い声、後ろでふざけているアガレスとアスタルト。


 その二人を見たアイネは声のトーンを和らげる。

「フフ、あの二人は特別ですね」


 サージとアガペからゆっくりと手を離して、元の位置に戻ったアイネは戦いの指示を続ける。


「フッラは外に出たら空へ急上昇。情報を収集して」

「はい。了解しました」

 フッラの声には、まったく緊張は感じられなかった。

「フッラ、おまえは怖くないのか?」

 アイネが言葉に、フッラは表情を変えず答えた。

「戦いに感情は必要ありません。そしてもし……」

 総司令官のアイネを見つめながらフッラが続けた。

「もし私が死んだら、次の私があなたを守ります」


 白き鎧バルキリーブレストを着たエンジェルナイトのフッラ。

 空を飛び宇宙と交信する、エンジェルナイトを保有する謎が多い国。


 フッラの言葉に複雑な表情を見せたアイネは、作戦の指示を続ける。


「サージ。おまえはここに残り続く者達を導け。それと、ジャンプの間隔だが、現在の二十分毎ではなく、五分毎に変更しろ」

 サージが命令に躊躇した。

「ジャンプは四つの神殿から行われます、空間と時間が重なってしまう恐れがあります」

 即座にアイネが答えた。

「ならばイルを呼べ。ジャンプをコントロールさせろ」


 頭を下げたサージ。アイネは続けてバアルを見た。

「バアル。おまえはフッラを守れ」

「はい、任せてください。総司令」

 

 全員に指示を与えたアイネは、ゆっくりと神殿の正面へと歩き始めた。

 アイネが宮殿の出口の前に立った時、バアルが宮殿の扉に手をかけた。


 静かに、戦いへの扉が開いていく。

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