第112話 戦場へ

 エールから先鋒として転送された五人の猛者たち。

 転送先の竜の国ドライグ隠された神殿の中でつぶやく声。


「真っ暗だな……」獣王アスタルトが呟く。

「おまえ、夜目が効くだろう?」暗黒騎士アガレスが呟く。

「まあな、百獣の王だからな」クク、アスタルトが笑った。


「敵はいないようだな」アガレスの言葉に獣王が聞いた。

「おまえも、夜目が効くのか?」

「うん? ただの勘だよ」

 アガレスの答えに「クク」お互いの顔を見て同時に笑いあう二人。


「こらアスタルトとアガレス。はしゃぐな」

 アイネいつもの丁寧な口調を止め、司令官として命令した。

「ほら、小娘に……総司令に怒られた!」

 ハハっと二人が笑う。


 戦いの中で生きてきた二人は戦場に、まったく緊張感など持ってない。

 呆れながらも頼もしい古い強者に、初陣で緊張感を持つアイネには心強かった

 まずは情報取集をするために、アイネはエンジェルナイトのフッラを呼んだ。


「フッラ、敵の分析は?」

 天使に似た翼を抱えた姿のアークランドの、エンジェルナイトであるフッラが答えた。

「現状では正確な分析は出来ません。データ不足です」

 情報を不足をアイネは認めながら、フッラの能力に期待して現時点での現状分析を託す。


「分かる範囲でかまわない。分析を頼む」

 目をつぶりデータの収集と分析を行うフッラ。

「この神殿内部に生命反応及び妖魔の反応もありません。99%の確率で無人と推測します。外の状況ですが……」


 数秒の間をおいてフッラが答えた。

「監視衛星タイタンからの遠視によると、外の敵の兵力は2万程度と報告されています。ただし48時間前の情報です。現在は敵の魔道士によるジャマーにより、データが得られません」


 エンジェルは機械化された民族で「カガク」という魔法とは別の力を持っている。

 この大陸の遥か上空に人工的な衛星をいくつか持っていて、高い情報集と防衛に使われていた。

 

「かんしえいせいって、なんだ?」

 アスタルトがアガレスに聞いた。

「オレに聞くか?」

「ああ、頭いいだろ? アガレスの方がさ。ゴース騎士団の団長だろ?」

「そうだな。だがおまえの獣人のトップじゃないか」


「バカいうなアガレス。俺が戦いと、食い物以外に興味などあるわけないだろ?」

 なるほどな、うなずくアガレス。

「確かに獣王には難しい問題だな……だがオレにも分からん! アハハ」

 大戦の前でも、大声で笑うアスタルトとアガレス二人の強者。

 ツクヨミは瞳を閉じ、フッラの分析に少し考えてから話を始めた。

「まずは外に出て情報を得る事が大切だな」


 恐れながらと、エール騎士団長サージが答えた。

「二十分ほどで軍の第一波がジャンプにより到着します。しかし、外の様子が分からない現状では、大量の軍勢は混乱を招くだけです。一度戻りますか? 情報取得後に作戦の立案をされた方が良いかと」


 サージの言葉にツクヨミは首を振った。

「それには及ばない。アーシラトが私の考えどおりの事をなすなら、時間が惜しい。作戦は続行する」

 ツクヨミが右手を開いた。力の循環が始まり魔法陣が廻り始める。


「闇を照らせ! ライト!」

 照明の魔法で辺りが明るくなる。真の暗闇に目が慣れて、自分で出した光に眩まないように、閉じていたツクヨミが目を開いた。

 

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