第108話 翠の大龍の勇者

 赤い砂埃が吹き荒れ、翠の風が渦巻く、ドラゴンウォーリア同士の圧倒的なパワー比べが続く。 

 お互いの拳が数時間打ち込まれ、赤と翠、二人の竜を守る、エナジィシールドが同時に砕け散った。

 「ク」赤龍王「チッ」バアルの呼吸ともとれる声が漏れたが、自分を守るシールドが消えても、そのまま撃ちあいを続ける赤龍王と勇者バアル。


「おまえも六頭竜のエナジィを持つとはな、転生勇者」

 シールドを失い、拳でも大きなダメージをお互いの身体に与えていく。

「同じだと? 忘れたか王。赤い火は青い氷を溶かし、緑の風は赤い火を消す」

 バアルの言葉に応える赤龍王。

「三つの色彩の力関係か? 確かに赤は緑には歩が悪い。だがそれがどうしたというんだ? おまえごときの力で、俺をどうすることができよう!」


「いいや、ここで――赤龍王! 俺は――おまえを越える!」

 バアルの右手に巨大な力の循環が始まり、同時に転写で赤龍王の後ろに飛ぶ。バアルの風切りの剣は、細いレイピアの形状に風が纏わり、爆風を起こす超大型剣ストームブリンガーへ変化する。

 お互いの単純な力の発動による戦いは終わり、ついにお互いの剣による生死をかけた戦いへと進んだ。


 ガキンン、風の剣が赤龍王の炎を吐き出す大剣に阻まれる。

 大きなつむじ風と衝撃を合わせて発生させ、空中へ飛びあがる二匹の龍。


 空中を徐々に上昇しながら、激しい打ち合いは続く、ぶつかり合う風と炎の波紋は空中でも衝撃波として、二人を中心に、爆心地になり爆発を繰り返していく。

 赤く染まる大空の上、お互いの超エナジィをぶつけ合う。


 ここまでは互角、後ろに飛んで距離をとったバアルが必殺の声。

「くらいやがれ!」

『爆風翠龍剣』 

 バアルの大剣が翠のエナジィを纏い、爆風を起こして赤龍王へ撃ち出される。

 両手で受けた赤龍王だったが、両手を削りながら緑の暴風が体を包み込む。

 衝撃を受け切れずに後方へと、翠の風に押されて吹き飛ぶ赤龍王。

 そこへまたバアルが転写し、一気に間合いを詰める。


「ふん!」赤龍王が右手の大剣を大きく強く降ると、必殺の間合いに入ったバアルは押し戻された。

 しかし、バアルは感触を得た――赤龍王の剣が壊れ始めている事を。

 アガレスが意識的に行っていた、赤龍王との剣の壁突、その意味に気が付いた赤龍王がニヤリと口元を緩ます。

「アガレスめ……武器破壊が狙いだったのか」


「今だ! その剣ではこれは受けらない!」

 バアルのエナジィが最大に高められ翠の風は複数に分かれて、バアルは四つの分身となり、最大奥義が打ち出される。

『真竜ソニックブレード』

 四体の翠の竜から同時に衝撃波が撃ち出され、ストームブリンガーの力を借りてバアルの通常モードの時の、百倍以上の風に翠の属性の威力が発現していた。


 その巨大な翠の属性のパワーは赤龍王の身体を粉砕していく。

 空中に吹き飛ばされてから、地上に落ちた赤龍王。

 バアルは静かに赤龍王の前に降りると言った。


「終わりだ赤龍王」

 澄みきった空は青く静かだった。砕けた両手を空に向かって広げながら赤龍王は言った。

「これが新しき力……力への意思。クク、素晴らしい」


 翠の大竜バアルは剣を払いながら言った。

「さらばだ六頭龍の王」


 バアルの翠の風が赤龍王を取り囲んだ。強い風に身動きが取れない赤龍王。

 バアルの大剣ストームブリンガーが赤龍王の胸を大きく切り裂いた。


「風の大剣を持つ翠の大竜。ふふ、自由に風を操るものだ」

 最後の言葉を残して、風吹く大地に倒れ込む赤龍王。


「……やったんだ、俺はやった、俺は赤龍王を倒した!」

 転生勇者の大竜バアルが天へと剣を掲げ、勝利を示した。

 巻き起こる風はバアル中心に大きく巻き上がり、竜巻の中に、翠の大龍の勇者の誕生を見せてくれた。


 その姿を遠目で見ていたイルが呟く。

「とうとう倒したのね、赤き大竜を……でも闇の王が言っていたラグナロクが気になる。でも……さあ帰りましょう、みんなの治療の為に。わたしの生まれた街、悠久の都エールに」

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