第103話 身を焼く憎しみ

「お父さん! 気が付いたの!?」

 父であった剣聖アークの、微かに残ったエナジィが話し始めた。


「アナト……すまんな。カッコ悪いとこ見せちゃったな」

 ばつが悪そうに微笑む父親に、泣き始めるアナト。

 娘をやさしく抱く剣聖。

 アナトは胸元からMonoChromeに輝くペンダントを取り出した。

「これ……お父さんがお母さんに置いていったペンダント」

 

 ペンダントを見て剣聖が懐かしそうに言った。

「それは母さん居に昔渡したものだ、母さんは大切にしてくれていた。これからはずっと、アナトが持っていてくれ。いつかおまえを救ってくれる……そして俺が残せる唯一のものだ」

 少し離れて見ているダゴンに、剣聖は気がついた。

「久しぶりだな、ダゴン。ほう、上には獣王とアガレス、それにモートも居るのか。昔を思い出すな」


「アーク……アナト、娘の剣で正気を取り戻しのか?」 

 ダゴンの問いに剣聖は笑った。

「フフ、ダゴン。おまえはまた戦いか!? 傷だらけだな。いつもおまえは誰かの為に傷を負うな。たいがいにしないと……グフ」

 笑みを浮かべながらも血を吐く剣聖に、なんともいえない表情のダゴンが首を振る。

「ばかが……俺なんかよりあんたの方が傷ついているだろ……家族のためにさ」

 ダゴンの答えに、今度は照れくさそうに笑った剣聖。


 身体は大地に風が立つ度に少しずつ拡散していく。

 風に乗ってサラサラと流れ始めたアークのエナジィ。


「いかないでお父さん! あたしを残して死なないで!」

 アナトの言葉に、剣聖が自分の娘を強く、強く抱きしめて最後の言葉を発した。

「10年前に剣聖のオレは消滅していたんだ。またおまえに逢えるとは……もしかして神様は居るのかもな……ダゴン、アイネ……娘を頼む」

 最後に最高の笑みをアナトに見せると、剣聖アークはサラサラ、サラサラと風に流れて消えた。

 崩れ去った剣聖アークの言葉に無言で頷いたアイネ。


 力なく座り込む、父親を請う、ただの女の子のアナトを闇の王が笑う。

「いいもんだね親子の愛。僕には関係ないものだけどね。さて、勇者には楽しんでもらえたかな? クク」

 その場の全員が燃えるような怒りと、悲しみを感じた。

 立ち上がったアナトの憎しみを隠さない、人の心を揺さぶる激しいエナジィが広がる。


「闇の王。絶対に……許さない」

 アナトの身体から炎のように、蒼いエナジィが吹きだす。

「アナト! やめろ!」

 急いでアナトに近づき、制止するダゴンの手をほどいて走り出すアナト。

 巨大なエナジィで宙に浮いている闇の王は、苦笑いをアナトに送った。

「クク、八つ当たりは良くないな、勇者」

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