第104話 狂気の力
アナトの姿がふっと消え、一瞬で闇の王の前に飛ぶ。
「なに?」
闇の王が驚いた顔をする。
「転写か? 人間にはできない技なはずだが?」
「転写ではない。あれは縮地」
ダゴンが闇の王ラシャプに言った。
「人では決して習得できない。瞬時に相手との間合いを詰め、相手の死角に入り込む技だ。剣聖の子供であるアナトの力が、怒りにより解放されたのだ」
ダゴンの顔が哀しみで歪む中、アナトの狂気の攻撃が始まった。それはただ怒りを乗せて、拳と脚を相手に叩きこむものだった。防御も作戦も無い。
ただ怒りだけがアナトを支配した。すぐに手が割れ、血が噴き出す。
それでも痛みを感じていないのか、痛めた身体にはまったくかまわず、ますます力を込めて、アナトは闇の王ラシャプへの攻撃を続ける。
「フフ。なんて情熱的な攻撃だ……いいね。全ては無駄だけどね、クク」
闇の王の周りには、魔法障壁が張られていた。球形状に幾層にも張り巡らされた、シールドの数は一万枚以上もあった。何者にも破られた事の無い、鉄壁の防御。これは古の天の神子の技術だった。
闇の王が耳に着けている、貝殻の形をした神の時代の古の通信機。
そこから“ラバーズ”天の神の遺産のオペレータの声が聞こえた。
「報告します。敵の攻撃により、777枚のシールドが破られています」
闇の王が少しだけ驚いて呟く。
「素手でシールドを破るとはね。でも無駄だな行為だ。シールドを内部から順次展開しろ!」
オペレータのラバーズがラシャプの命令に答える。
「了解しました。破損分のシールドを、内部から再生。再び展開します」
しばらくして動きが止まったアナトの手足からは、血が溢れ、肉も、骨までもが砕けていた。
見かねた闇の王がアナトに言った。
「無駄だよ。この防壁は天の神子の遺産だ。絶対に破れない。人間の勇者よ美しい身体に傷がつくだけだよ」
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