第101話 戦士の正体
異形の者を倒した今、闇の国の玉座前では再び、戦いが始まろうとしていた。
「さて。僕の方はとっておきの戦士を出そう。この世界で英雄の名で語られる剣士をね」
闇の王の足下に真っ黒な姿の軽装備の剣士が現れた。
「こんな弱そうなのでいいの? あたしが、さっさとやっちゃうよ!」
アナトが勇者の力を宿した蒼い瞳を輝かせ呟く。
既にエナジィを戦闘力に変換し、戦いへと気持ちを高揚させていた。
「フフ、どうぞ、人間の勇者。気に入ってもらえるよ。とってもね!」
闇の王が笑う。
「あ、そう。じゃあ、遠慮なく行かせてもらうね」
その言葉が終わらないうちに、アナトは走り出した。ぎこちなく剣を構えた黒き剣士の首に、アナトのすらっと伸びた右足が撃ちこまれる。
強烈な衝撃で横へ弾き飛ばされる黒き剣士。
それに合わせて横に飛んだ、アナトの左手が黒き剣士を追撃する。
黒き剣士の腕を取ると、身体を捻りながら頭から地面へと叩き落とした。
アドホックモード。アナトの父が使った戦闘モード、勇者の戦い方は左手をフリーにして、腕輪と指輪で敵の攻撃を受け流す、自由になった左腕で、打撃や投げなど自由な攻撃ができる、勇者になったアナトは自然に使うことが出来た。
「すっごく弱いね。話にならないよ」
シャリン、地面からフラフラと立ち上がった黒き剣士の左手の腕輪が音を立てた、
その懐かしい音と、黒き剣士の顔を見てアナトは驚く。
「え! ええ! もしかして……そんな、ウソでしょう……?」
優勢だったアナトがいきなり後ずさる。
その様子に何かを感じたイルが、黒き剣士を見て、アナトと同じく驚いた。
そしてアイネが呟く「師匠!?」
「どうした三人人とも?」
ダゴンがイルに聞いた。
「このエナジィは……剣聖アーク? アナトのお父さん……?」
アイネが相槌を打つ。
「そう、あの太刀筋は、私の件の師匠である剣聖アーク……受けるエナジィは驚くほど低下しています」
呟かれたイルとアイネの言葉に、ガタガタと震え始めるアナト。
「やっぱり本当にお父さんなの?」
黒き剣士は答えず、ぎこちなく剣を構えるとアナトに斬りかかった。
「アナト、あぶない!」
ダゴンが飛び出し、アナトを抱えて背を向ける。
力なく剣を振り下ろし続ける黒き剣士の切っ先で、ダゴンの背中は斬られ、鮮血が飛び散った。
「お父さん……お父さん……」
腕の中でうわ言のように、繰り返しつぶやいているアナトに、言い聞かせるようにダゴンが言葉をかける。
「アナト! やめろ! 見るな! 剣聖のエナジィを感じるな!」
ぎこちなく振り下ろされ続ける黒き剣士の剣に、ダゴンの背中が割かれ血が飛び散る。
血を浴びながら、アナトは震えが止まらない。
ダゴンが闇の王に叫んだ。
「おまえ! アナトの父親の剣聖に何をした!?」
「クク!」
闇の王の笑い声が大地に響く。
「エナジィが抜けたら、剣聖といえど壊れた操り人形のようだねえ。何をした? 剣聖の身体とエナジィは、僕が契約でもらった物だ、どうしようが僕の勝手さ」
本当にうれしそうな冷笑を見せる闇の王。
「しかも彼の要望も聞いてやった。自分の娘が勇者になるまで現代で生かして欲しい、そこで僕は十年も待ったわけだ。娘の転生勇者は二年前に勇者になったから、契約成立ってとこだね……これが見たかったんだよ、古い勇者が新しい勇者に倒される、殺されるところを本当に見たかった、クク」
震え続けるアナトが、微かな声でダゴンに聞いた。
「お父さんは? お父さんはどうしたの……?」
目をつぶったダゴンは、少し間を置いて話し始めた。
「おまえは子供のころエナジィを冒される病気になった。それは命に関わるものだったそうだ。おまえのいた現代ではエナジィを治す事は出来ない。助ける為にアークは異世界の闇の王に逢いに、闇の国レイスに下りて行った。何事もなく帰ってきたが、それからすぐに、剣聖はこの世界から消えた。」
「えっ……」
アナトがダゴンに向って呟いた。
「それって……わたしの為に……お父さんが」
ダゴンがアナトをギュッと抱きしめた。
「そうだ……お前を救うために、闇の王にエナジィと身体を渡したんだ。そしておまえが勇者として育つまでは見守りたいと、闇の王と約束をしたんだ」
アナトがダゴンの腕の中で力をなくして呟く。
「うそだ、そんなの……うそだ……そんなの絶対嫌~~!」
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