第100話 イージスの盾

「みんな俺の後ろに来い」

 ダゴンが叫びながら素早く前に出と、金色に輝く大盾を前に付きだして、黒き弾から四人を守った。

 ダゴンの盾に黒き弾が弾かれる。


「この野郎! 元勇者のくせに往生際が悪る過ぎるぜ!」

 ダゴンはグイと前に出ると、盾ごと身を異形の者へぶつけた。

『シールドバッシュ』

 異業の者の五メートルの巨体が、ダゴンの圧力で後ろに下がる。


「さてと、それじゃ本格的に……行くぜ」

 黒き槍グングニルを振り、異形の者へ向かい押し込むダゴン。

 直ぐに肩や手足に黒き弾が被弾するが、ダゴンの前進は止まらない。

 着弾する金属の弾により、黄金の盾の塗装が剥げて銀色に輝く十字の印が現れる。


 ダゴンの盾の模様を見たイルが驚く。

「あれはイージスの盾? もしかしてダゴンは……シルバーナイト!?」

 ダゴンと一緒に行動していたアナトにイルは聞いた。

「いーですの盾?」

 とんちんかんなアナト。

「おばか……。イージスの盾よ……」

 ため息をつきながらイルが続けた。


「神人にその力を認めさせる為に、マスティマ女王と神人と戦った伝説のナイトが、持っていたの。十字の紋章が刻まれた銀色のイージスの盾を」


 アナトが異形の者を、後ろへと押し込んでいるダゴンに聞いた。

「忙しいところ悪いんだけど、ダゴンの盾ってイルの言うとおりイージスの盾?」


 力まかせに身体を異形の者に、盾事ごとぶつかるダゴンが答えた。

「あれ、言わなかったっけ?」

 両手を胸の上で組んで呆れた様子のアナト。


「ふ~~ん、じゃあなんで、金色に塗ってるのよ? シルバナイトじゃないの?」

 体は前に前進させつつ、アナトの方を見たダゴン。

「銀色より高そうだろう?。金色ってさ」

「相変わらずの、能天気ぶりね。ダゴンがシルバーナイト、伝説の戦士だったのか」

 アナトの脳裏に二年でダゴンの前で「やちゃった」事を思い出し顔が赤くなった。

「現在の英雄……神人をヤリにゴッドパレスまで、行ったのかあ。結構すごいなぁ」


「十分関心したか……じゃあ、ちょっと手伝えよアナト」

 異形の者が動けないように、盾で押し込むダゴンがアナトに助力を頼む。

「ああ……そうだね。あんたが伝説の騎士だというから、ちょっと驚いて戦闘中なの――カ・ン・ペ・キに忘れていたわ」


 言葉を終えると、走り出したアナトはダゴンと異形の者の横を通り過ぎ、後方へ回り込む。異形の者の肩に、別の黒い穴が現れアナトに向かって、黒き弾が打ち出される。


「この! うちの娘になにすんんだよ」


『シールドバッシュ』

 盾で異形の者を弾き、グンニグルでその黒い穴ごとアインの肩を削り出す。

 ダゴンがアナトを心配して、目で後を追うが、異形の者の弾を楽々避けていくアナトは、まるで踊りを舞っているように、軽やかなステップを見せている。

 アインを円周で回りながら、徐々に向きを変え、軽いステップでダゴンに近づく。


「アナト、なんだ、どうしてこっちに向かってくるだよ。敵はあっちだって!」

 焦るダゴンへ勢いをつけて回り込み、ダゴンの頭を蹴って空中に飛び上がるアナト。


「こらあ! 保護者の頭を蹴るな!」


 ダゴンが怒った時には空中でアナトは呪文を唱え始めていた。

 その手に力の魔法陣が輝き魔力の循環が宿る。


『すべてを打ち消せ ラ・シャイン」


 光の魔法「シャイン」が発動し、質量のある光の雨が範囲攻撃で一帯に降り注ぐ。

 魔法を打ち出しながら、気が付いたアナトが叫ぶ。

「あ! お・じ・さ・ん、いつものとおり……回避してね!」


 アナトの放つ光の矢を転がりながら、避けつつ後ろに下がるダゴン。

「そいうのはいつも言っているが……先に言え!」

 アナトの放った光弾が異形の者、アインであった者を貫いた

 体中を光の筋が貫通し、どす黒い血を流しながらドッと倒れ込む異形の者。


「さすがね。あの方が転生勇者バアルと、もう一人確実に成功させるために、この娘を欲しがったわけが分かる」

 導かれた勇者の力にアーシラトも感心していた。


「ア~ナ~ト~オレの事忘れて魔法を撃たなかったか?」

 ダゴンが傷をたくさん作って近づいてきた。

「あれくらいなら即興で合わせてよ。伝説のナイトさんなら、楽勝でね!」

「ふざけんな」ダゴンがアナトを、追いまわし始めた。


「仲がいいわね……しかもあの力。現時点で最強の力を持つのはアナトかも」

 アーシラトが呟いたとき、光の魔法で削られて小さくなったが、三メートルを越える、異形の者が立ち上がり、アナトとダゴンに異形の者の両手が振り下ろされた。


 ガキン、異形の者の攻撃を素早く前に出て受けたのはアイネ。

「あなたの相手は私ですよ。忘れていませんか。ちょっとしつこいですね。これで最後にしましょうか」


 両手をクロスして腰の双剣に手をかけた時、六つの銀色の羽がアイネの左右に表れ、左右の長剣が三回ずつ六回もの円の軌道を見せた。

 襲い掛かる異形の者を、素早く霧のようにアイネは通り抜けた。


「クク、魔法も一流で、剣は二刀で、同じ速度で同じ威力の技を打ち出せる……さすがだな団長」

 バラバラに切られた異形の者は感嘆してチリになった。

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