第87話 最終目的

「大きな黒い扉が奥に見えるな」

 バアルが優れた竜の目で見た詳細を告げる。


「扉は開いている。門の奥に黒い宮殿があり、微かな光が入口から漏れている」

「ふ~ん」

 アイネが軽めに聞きながす。


「アイネは何にも興味がないのねぇ。闇の神殿かぁ。みんな初めて来た感じ?」

 アナトはアイネを見ながら続けた。

「……それにしても設定がベタすぎない? まさか闇の王とか出てくるみたいな?」

 アーシラトが頷く。

「そうよ。でも分かりやすくていいでしょう? まずは王道で攻めてみる事が大事よ」


 バアルがアーシラトを見た。

「アーシラト、おまえの計画通りに進んだようだな」

「いいえ」

 キッパリと否定したアーシラト。

「力ある者集める。その力を見極め弱点を克服させる。ここまでは計画通りだったわ。でも、パーティの構成により総合力がここまで跳ね上がるなんて、予想していなかったわ」


 バアルが闇の神殿を見た。

「つまり、俺たちは強い……闇の王と戦えるほどに。そういうことか?」

「そうね。その資格は有しているわね。でも……」

 不思議な表情を見せたアーシラト。


「話は簡単にしてよね」

 元気を取り戻したイルが話を結論づけた。

「つまり、アーシラトが求めていたのは「この戦い」私たちの弱点を克服させる為に。私の弱点は精神力だったのかな。最後にこの中の奴をぶっ飛ばすと目的は完結して、地上へ帰れるって事ね。それでいいよね?」


「そういう事ね」

 アーシラトはイルの言葉を肯定すると、五人に聞く。

「さあ、最初は誰が行く?」

 バアルがアーシラトに聞き直す。

「最初だと?」

「そう。闇の王が既にお待ちかねよ。」


 アーシラトの言葉で、フッと周りが暗くなった。


 辺りは果てしない砂漠が広がる風景へと変化していく。闇の神殿も消え、見渡す限り何も無い。

 空は紫と黒が溶けあう分厚い雲が、早い速度で動いていた。


「閉ざされた空間でバトル? ボスを倒すまでここを出られない設定なのかな?」

 アナトが肩をすくめた。

「……こんなのは勇者は気に入らないのかい?」

 声がした方を見る六人。


「え?」

 バアル、アナト、ダゴン、ラシャプ、イルは小さい驚きを漏らす。

 百メートルほど上空に浮かび上がる真紅の椅子に、悠然と座る細身な若い男。


「ようこそ、我が居城に! 人間の勇者よ」

 男は、腰まではあるであろうシルバーグレイの長髪を綺麗に梳かしつけ、後ろで一つに結わえ、耳のあたりにはピアスだろうか、貝殻のような飾りをつけている。

 吸血鬼のような黒のタキシードを着て、黒い、裏地が真紅のマントを羽織っていた。


「僕が闇の王ラシャプ。ふーん、なかなかいいじゃないか、君達」

 椅子の片袖に肘をついた闇の王は、六人を空中から見下ろし、満足そうに微笑んだ。


「ラシャプ! おまえがこの戦争の引き金かよ!」

 バアルがかつて、母である大魔王の側近を務めていた魔王を睨む。

 しかし、ラシャプは不思議そうな顔をした。


「……初めましてだよね。転生勇者。名は確かバアルだっけ?」

 面識がないと言われたバアルは、ラシャプにされた事を思い出して、怒り心頭。

「ラシャプ! 何をとぼけてんだよ! おまえは俺をロケットでここへ打ち込んだろうが!」


 アーシラトがバアルを見て呟く。

「相変わらずバカで鈍感で単純でアホでカスね、バアル」

「なに!?」バアルの怒りがアーシラトに向いたときに、真実は告げられた。


「この方は闇の王であり、封印されたまま、もう長い間地上になんか出てないわ」

「え!? どうゆう事!? じゃあ、俺をロケット飛ばした嫌な奴は誰なんだ!?」

 怒り顔から、クエスチョン顔に移行したバアルに溜息をつくアーシラト。


「やっぱりバカで鈍感で単純でアホでカスね、バアル、そんなの偽物に決まっているじゃない? なぜわかるかって? エナジィを見なさい、こんな巨大で邪悪な力を感じられたかな? それと、偽物は私が仕込んだのだから、間違いないわ」

 アーシラトのカミングアウトにあっけに捕らわれたバアル。


「そんなバカな……なんでそんなことをしたんだよ!」

 腕組みをしたアーシラトが昆虫でも見るようにバアルを見た。

「当然、必要だからでしょ? 私のためにね」

 口をパクパクさせてアーシラトの言葉に衝撃を受けているバアル。

 そんな元兄弟には関係なく。イルが不思議を述べる。


「あれって……」

 イルが不思議そうに上空を見上げる。

「なんで、空中に浮いていられるのかなあ?」

 どんな仕組みなのか椅子と共に宙に浮いている闇の王。


 目をこらすと椅子と闇の王の周辺にだけ、細かくキラキラと光る何かが見えるようにも思えるのだが、ここからでは何が反射しているのか分からない。

 ただ、椅子には他にも何か仕掛けがありそうに見えた。


 闇の王が無表情のままで、すこし退屈そうにアーシラトに聞いた。

「どうも情報が錯そうしているようだけど、僕との約束は果たしてくれるのかなゴースの魔女よ。このメンバーで本当に大丈夫かい?」

 アーシラトは少し考えをめぐらして答えた。

「はい。二人の勇者と強い力を持つ、この者たちなら。たぶん」

 ほほづえをついいたままで、軽くうなづいた闇の王に、言葉を続けたアーシラト。

「たぶん、闇の王との約束は果たせると思いますが……本当の地獄を見ることが必要だと思います……この子達は」

 フフ、口元に冷酷な微笑をアーシラトが見せた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る