第88話 闇との戦い
アーシラトの氷の微笑にバアルが何か言いかけるが、アナトが先に別の言葉を発した。
「ふーーん、意外とカッコいいね。年も近かったりする?」
アナトが闇の王に向かって指をさす。
「クク、ありがとう。人間の勇者」
微笑む闇の王。
「僕も勇者のパーティがこんなに可愛い人たちとは、思わなかったよ」
右手で椅子の片袖に、頬杖をついたまま答えた闇の王。
「アナト、アナト」イルがアナト腕を引っ張る。
「なによイル?」イルに視線を向けたアナト。
「アナトは普段おっさんと、おばさんばかりなのは、確かにガッカリ感が半端ないけどさ、闇の王の若作りも半端ないですから!」
「え? そんなに年食ってるの? あいつ?」
アーシラトが高く空中に止まる、闇の王の玉座を見て呟く。
「巨大なエナジィで浮かんでいるみたいね。転生した赤き王と同等、いえ、それ以上かもしれないわ」
とってつけた説明に上空の闇の王からアーシラトへと、アイネが視線を落とす。
「ふん。し・ら・じ・ら・し・い・ね。赤龍王と闇の王が戦うより、二人が協力する方が似つかわしいのでは? 魔女アーシラトが考えそうな事ですね。でも望んでも叶わないのは、分かっているのでしょう?」
アーシラトは複雑な表情で微笑んだ。
「ええ。闇の王は危険な存在、ゆえに闇の国に幽閉されている。巨大な力を持つ闇の王も神の力には敵わない。闇の王は地上に出ることはできない。決してね。だから、あなた達を闇の王と戦わせ成長させることで、赤龍王と戦う力の代わりとする。これなら納得してもらえるかしら? アイネ?」
「うん……一応。でも」
納得しきれないアイネはアーシラトを見た。
「それならいいけど。でもその良い答えに、今感じているのは違和感だけです」
「わたしが嘘をついている、そう言いたいのかしら?」
「本当の事が少ないあなたですが、私たちを強くしたい話は信じられます。ただ隠し事も存分にありそうです。例えば……闇の王にかけられた天の神子の術式を破り、地上に出す……とか」
「フフ」是とも非ともどちらにもとれる、アーシラトの笑い。
真意を探るアイネにアーシラトは前を向いた。
「底知れないわねアイネ……でも、まずはこれが終わってからでいい?」
アーシラトが目線を送る先には、大きな脅威が浮かんでいる。
「そうですね」
アイネが一応納得したところに、バアルが一歩前に出た。
「闇の王……あんたは大魔王の地底の基地にいた魔王ラシャプじゃないんだな?」
バアルの問いに闇の王が頷く。
「そうだよ。地上の僕は魔力で作り出した分身。それでも十分大魔王を名乗っていたのに、おまえの母が突然現れ、僕の世界を壊してしまった。だからね、僕はここから出ようと思ったのさ、その手伝いを君の姉君に頼んでね」
空に浮かぶ古い大きな革製の椅子に、悠然と座っている、闇の王ラシャプの右手がパチッと鳴った。
一人の鎧の男が、闇の王の前に徐々に浮かび上がる。
「さて、これから個人戦だ。全員を倒せば外へ出られるルールにしよう」
その透き通る声は少年のような姿と合わせ、闇の王とは思えない、麗しいものだった。
「始めるとしよう。我が闇の勇者よ、前に進め!」
闇の王の前に立っていた鎧の騎士が、闇の王に一礼して、こちらへ向かってくる。
身に付けた鎧はガチャガチャと音をたてる、かなり古びている装備を見てアイネが呟く。
「何者でしょう? 闇の王の直属ならかなりの実力者のはず。噂に聞いてもおかしくないです。見知らぬ紋章に見た事の無い鎧です」
アイネの疑問に答えるイル。
「今は使われていないからね。あれはたぶん……大昔の伝説の勇者よ。そしてあの苦衷に浮かぶ者が闇の王なら、聞いてほしい事があるわ。本来は秘密事項なんだけど、もう、みんな命を預ける仲間なんだし、これから言うことを聞いておかないと大変な事になる予感がするの」
イルが語りだしたのは、エール王国のライブラリィに残るという、闇の王についての記述だった。
遥かなる過去に、星間戦争が行った。
この世界を襲ったのは「天の神子」
世界を守るのは六頭の龍の神。
戦いは激しく、双方とも被害が多かった。
天の神子の司令官は一計を立て、一気に六頭龍を倒して、この世界は一度ほろんだ。
天の神子の司令官と軍の兵士は、自分たちの行為の結果に悲しみ、この世界に留まり、世界の復元を行った。
天の神子の兵士たちは、超技術を捨て、この世界の民となった。
司令官はこの世界を守るために、転生を繰り返して、知識と天の神子の兵器を管理した。
悠久の時が経ち、一部の人々は先祖返りのように、再び神になる道を進む。
その名は「神人」と呼ばれる。
神人は恐れた。本当の神である天の神子を、そしてその血を処分する事にする。
母親は機械にされ、その子供は地下深くに封印された。
イルが話したエールのライブラリィを聞いてバアルが叫んだ。
「まてイル! それって機械のマスティマ女王が語った神話の事じゃないのか!?」
静かに頷いたイルは自分の考えをバアルに返した。
「そう、この世界に伝わる神話は事実で、神人は天の神子の血に恐怖して、そして実行した。転生を繰り返していた天の神子の司令官であったマスティマ女王の機械化と……そして、その子供である闇の王ラシャプの封印を施したの」
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