第85話 勇者の資質

 アナトの紹介で、驚く4人へダゴンが頭を下げる。

「よお! ダゴンだ。うちのアナトが迷惑かけているみたいで、すまんな」


「これはこれは。ご丁寧な挨拶……おそれいります」

 イルとアイネが頭を下げた。

「こいつが迷惑なんだよ」

 同時にお互いを指さすアナトと、バアルを見たダゴンがガッカリした。

「あのさアナト。やっと会えたバアルなのに、初めにやることが喧嘩かよ」

「こいつが悪いんだよ」

 またもお互いを指さす、アナトとバアルにダゴンが呆れる。


「大変だな。こんなのと一緒にいると……あなたの苦労が分かります」

 ダゴンが同情を見せると、アーシラトが頷く。

「ええ……まったくです。あなたもねダゴン。察しますよ」


 うん? 首を傾げたダゴンが尋ねる。

「その声、その姿、そしてアーシラトの名。前に会った事があったような」


 イルがダゴンの言葉に呆れた。

「あのね赤髪の騎士さん。二年前に戦ったでしょう? こいつは魔女アーシラト」

 おお、手を打ち頷くダゴン。

「そういえば、そんな感じがでしてきた」


 イルがガックリと肩を落とした。

「まあ、ダゴンは歴戦の強者だから、あのくらいの戦いは記憶に残らないかな。世情も興味なさそうだし。今はね赤龍王が大陸制覇を狙っているの。そしてこの魔女がなぜか防ごうとしている。強大な竜の力に対抗するために闇の国にある、何かを探しに来ているの。何かはアーシラトが教えてくれないけどね」


 ほうほう、イルの説明を聞いていたダゴンが、アナトと自分の状況を返す。


「二年前に召喚された勇者アナトは、バアルを探していた。その辺はナメコ……あ、今は巫女イルだな、よく知っているだろう? その後に現代で行方不明になった、アナトの父親も探す事になって……」

 いったん話を切って、ダゴンは頭の中でまとめてから続きを話す。


「二年の間に大陸全土をくまなく探したが、二人を見つける事が出来なかった。そこで残った闇の国ゴースを探していたわけだ。ここにいないなら、あとはゴッドパレス、神人の国になるわけだが、あそこは色々とまずい事が多くてな。まずはバアルが見つかってよかった」


 そうなの、イルが納得して、自分が分かっていることをダゴンに伝えてた。


「バアルは長い間、獣王アスタルトと暗黒騎士アガレスの二人に匿われていたの。レべリオンの監獄にね。その間に竜の力を得て、赤龍王に挑んだけど、返り討ちに。助けたアイネがバアルをエールに連れてきた」

 なるほど、イルの話を聞いていたダゴン。

「監獄とエールに居たのなら……わからないはずだ」


 ダゴンの言葉にアーシラトが続ける。

「私も行方不明のバアルとアナトを探していたわよ」

 ダゴンが不審そうな顔をする。

「二人を探してどうする気だ? だいたいおまえはモート……今は赤龍王の女なんだろう」


 あら、よく知っているわね、アーシラトが頷く。

「そうか、あなたは赤龍王や獣王、暗黒騎士とも知り合いだったわね。そうね、確かに赤龍王は愛する人だけだど、転生したこの世界は結構気にっているの。彼氏が間違った方向に進んでいたら、止めるでしょう?」


 アナトと喧嘩中のバアルが口をはさんだ。

「嘘くさいんだよなあ。現代で姉だった時は彼氏の為に、良くも悪くも命がけだった。転生して姿も能力も変わったけど、俺も含めて性格はかわっていない気がする。だから世界より彼氏をとるのが、アーシラト的と思うのだけど」


 アーシラトは弟であったバアルの言葉に返答した。

「確かにそうね。でも、これほど日常が変化すれば、考えも少しは変わるものよ」


 バアルが喧嘩を中断したので、アナトは最大の謎を投げかけた。

「変わるといえば、バアルはなぜあたしをこの世界に召喚したの? そして勇者として転生させる必要って何?」


 バアルがアナトの言うことが理解できないと首を振る。

「アナトを召喚した俺が!? そんな事できるわけない。勇者にはそんな企み事は……悪事なら策略が大好きな奴を知っているが……ジロリ」


 テヘ、ばれた? 苦笑いのアーシラト。

「そうよ。アナトを呼び出したのはのは私。もちろん、私の役に立って欲しかったらね。ある方と約束をしたの、それには勇者の力が必要だったから。弟のバアルだけでは心もとないし。ただしその辺にゴロゴロいる転生勇者では困る、最高の力を持った者を転生させたかったわけ。そこで代々勇者を務めるあなたの家系が気に入ったわけね」


 アーシラトの答えに疑問を唱えるアナト。

「あたしは普通の中学生だった。転生したからって、強い勇者になるとは限らなかったでしょ?」 


 イヤ、首を振り否定すアーシラト。

「アナトは強い勇者になると決まっていた。あなたの父親はこの世界で最強の勇者だったから。その資質は受け継がれているの」


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