第75話 戦士と呼べない者
宮殿都市エールの庭園で、赤龍王との経緯を話すアイネ。
それを聞き入るイル。時折、バアルが頷いたり補足を入れていた。
「……というわけです」
アイネが説明を終えると、白い巫女の衣装を着たイルがため息をつく。
「つまり、二人で仲良く逃げ出したというわけね?」
長い髪を長めの水引で結んでいるイルの問いに、すかさず答えるアイネ。
「いや、ただ、めんどくさかっただけですね」
アイネの答えに益々落胆した、イルが首を左右に振ると、巫女の長い水引が揺れた。
「同じだわ。もぉ~~なんで、いつも、こうも、やる気が無いのかなぁ。私なら、赤龍王を倒して、世界を征服して、ハーレムでも建てるのになあ」
アイネの目の前にグーで拳を突き出すイル。
「ハーレム……そいつは凄いですね」
両手を上げて参ったと言い、それからバアルの方を向いたアイネ。
「そういうわけで、一緒に赤龍王を倒すというバアルの要望には面倒なので……すみません」
バアルは全然納得がいかない。
「面倒だから? アイネの力と俺が協力すれば、赤龍王はきっと倒せる!」
「う~~ん」
悩むアイネの代わりに答える声があった。
「戦う覚悟が無い。そんな者は戦士とは呼べないからな」
一人の老人がこちらに近づいてきた。
「まったく、テンプル騎士団の団長ともあろう者が、戦う覚悟が出来ていないとはな……」
イルがすかさず老人の言葉を修正する。
「元団長ですよ。あの頃は少し格好良かったのですが、あんまりにグータラなので、今はフリーです」
イルの率直な言葉を聞いた老人が笑った。
「えーと、この人は誰です?」
バアルが老人を指差す。
「この方は我が国の王様です~~! よろしく転生勇者さん!」
軽いノリでイルが答える。
「へぇ~~王様なんですか。エールの……え、ええ!?」
バアルは目の前の老人が、この国の王だと途中で認識し、想像してもいなかった状況に焦りながら、竜の国の正式な礼をする。
「し、失礼しました、エール王。俺、いや私は勇者で名はバアルと申します」
エール王は構わないと、手振りで答える。
「バアル、盛大に負けたそうだな。赤龍王に」
正式な礼のまま、エール王に答えるバアル。
「はい。そこでどうしてもアイネ殿の力を借りたいと、お願いしていました」
視線をアイネに移すエール王。
「アイネはどうするのだ?」
アイネが答えようと口を開く。
「めんどくさ……」
ガス。アイネの頭を、持っていた杖でイルが殴った。
「痛いです」
頭を押さえて座り込んだアイネ。代わりにイルが回答した。
「少し考えさせます」
「そうか。それもよかろう。イルがアイネの欠けている部分を補ってやれ」
「はい!」
王の言葉に元気に答えるイル。
「私は別に欠けてなんかいないです」
アイネは不満そうだが、イルは任せといてと胸を張る。
その時、宮殿に警報が響きわたった。
「どうしたのじゃ?」
エール王の言葉に反応するようにその場の四人、王、イル、アイネ、バアルの頭に直接に声が響いた。
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