第67話 レべリオンの影

 アナトの背後でコボルドが、背に挿した曲刀を抜いた。

「死ね! 人間の勇者!」


 ガチィン。

 金属が弾ける音がした。アナトは面倒くさそうに、顔だけコボルドに向けた。

「も~~コボちゃん……大人しくしてよね」


「バカな俺の刀を素手で受け止めた!? いや、おまえのそれは……なんだ?」

「これ? 何って言われても、腕輪と指輪だけど?……あたしのは戦闘用だけどね」


 アナトの指には赤、橙、黄、緑、青など七色の指輪がはめられ、腕にはの二つの腕輪が光っていた。

 アナトに振り下ろされたコボルドの曲刀は、二枚の腕輪にガッチリと受け止められていた。

 腕輪も指輪も、一見、装飾品のように見えるが、魔力と防御力を秘めている防具だった。


「いつまでこうしてるの? うざいわよ」

 ぱっと左手を振り払うアナトに、コボルドは剣ごと跳ね上げられ、後ろへ押し下げられる。

 同時に曲刀は上に払われ、両手を上げてバンザイの格好になったコボルド。

 その首に向かってアナトは、スラリと伸びた足を高く上げ、一気に横へ蹴り込んだ。


 バシイイン。強く首を打たれた衝撃で、コボルドはダゴンのいる方へふき飛ばされた。


「そいつは任せるわね。ダゴンのオ・ヤ・ジ」

「ダゴンのオ・ニ・イ・サ・ンだ!」


 アナトの口真似をしながら、ダゴンが背中の黒い槍を抜く。

 グングニル、遙か昔にあったとされる戦い、神人と六頭竜の話に登場する神代の武器。


「ふん!」ダゴンの気合いと共に、空中で一回転した巨大な槍はコボルドを一突きにした。

 ダゴンの重くそして速い一撃に、断末魔の叫びを上げる暇もなく息絶えるコボルト。


「なるほど……人間の勇者が迷い込んだと聞いたが、ただものでは無かったようだな」


 アナトの背後にうっすらと影が立ち始め、どんどん濃度が上がっていく。

 数秒後に現れた姿は、人間と悪魔を掛け合わせたアークデーモン。

 牛の頭部のように大きな角を持ち、強力な魔法を操る、レイスでも上位に坐するモンスターだ。


「アークデーモンごときが何の用?」

 アナトの言葉に大きな二本の角を生やした巨大な顔が笑った。

「ふふ、気が強いな人間の勇者。おまえたちは少しやり過ぎた。これ以上この森の奥に進む事は許されない。二人には消えてもらう」

 ふぁあ~~と両手を高く挙げて背伸びしたアナト。


「それで? どうしてくれるって? アークのオ・ジ・サ・ン?」

 三メートルを越える巨躯を持つ、アークデーモンの脅し文句を退屈そうに聞き流したアナト。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る