第66話 増えた探し物は父親
ダゴンの言葉に、今ここに自分がいる理由を思い出すアナト。
「今は少し違う気持ちだけど……でも、ダゴンの読みは合ってるよ。ダゴンってサポートジョブは幻術師かなんか? 人の心が読める力があるとか?」
「フッ、そうかもな」
胸を張ったダゴン。
「へえーーマジ凄いわ。少しだけ見直したかな……人ってなにかは取り柄ってあるのね」
アナトの言葉に、二、三回大きく頷くダゴンが種明かしをした。
「あんなにデッカイ独り言なら、よく聞こえるぜ?」
「うっ!」
アナトの頬が赤く染まり、恥ずかしさのあまり思ったことを言葉にしてしまう。
「なんでバアルに会えないのかな。そして本当に会う必要なんかあるのかな……それにアイツの事も知らなかった」
アナトは二年間もバアルを探し続けていた。その間に勇者の話は聞こえてきて、竜の力を得てレべリオンとも戦っていると聞いた。そこでドライグと竜の国にも行ってみたがバアルは行方不明だった。
そして、もっと大きな問題がアナトを悩ませていた。
なんと現代で出張中で、十年も顔を見ていなアナトの父親は、この世界に存在している事。
しかも父親は「高名な勇者」だという。
「父親はね、現代で子供を放棄してさ、こんな所で趣味の冒険三昧。なにが伝説の勇者よ」
現代でサラリーマンをメインジョブにするアナトの父親は、この世界ゴースにおいては剣聖と呼ばる勇者だった。この世界では賞賛の言葉しか聞かない伝説の強者だという。
アナトの強い反発に困惑するダゴン。アナトは父親の事や、バアルに会えない事で精神的に不安定になっていた。
「あたしはね、今だって仕方なく勇者をやっているの。バアルに会う目的はあるけど、そもそも父親がちゃんと勇者していれば、この世界に、あたしが召喚されることもなかった」
アナトは突然くるりと九十度向きを変えると、側道の森へと歩いていく。
道を外れ、森の中に入っていくアナトの後ろ姿を見ながら、ダゴンは道の端で立ち止まった。
「おい、どこへいくんだ、アナト?」
ダゴンの問いには答えず、アナトは道の脇の大きな一本の木の前で立ち止まった。
アナトは右足を高く上げ、そして森の暗がりへと、自分の足を踵から叩きつけた。
ガツンン。なにもない筈の空間にアナトのヒールがヒットする。
「!」声にならない驚きを発して、いきなりアナトに蹴られた黒い影が飛び出して来た。
オオカミに似たモンスターのコボルドが頭を押さえて呻いた。
「何故だ! どうしてお前達をつけているのが分かった!?」
まさかの尾行失敗に驚き、困惑するコボルド。
アナトとはというと両腕を腰に当てて、
「ふぁぁ」
欠伸中だった。
「あんた息くさいよ。ちゃんと毎日、歯を磨いてるの?」
「臭いだと? 俺の匂いが人間に分かるはずない!」
コボルドの焦りまくりの反応に、ニコリと笑った十六歳の銀髪の美少女。その可憐さはモンスターであるコボルドさえも一瞬魅了されたほど。
「ねぇ、コボちゃん。あなたの言葉って……あたしに言ってるように聞こえないのよね。近くにお仲間でもいるのかな? もしかしてあなたレべリオンの兵士かな」
コボルドの顔を覗き込んだアナト。
ギクリと表情が変ったコボルドにダゴンが呟く。
「アナトは見かけは可愛いけど……勘が鋭くて性格が悪いぞ!」
クルリと向きを変えたアナトは右手でダゴンを指さし、猛烈に怒りだす。
「そこのオヤジ! うっさいわよ! 性格が悪いは余計でしょ!」
「俺はオヤジじゃないよーだ! まだ花の三十だぜ?」
「それを世間では立派なオ・ヤ・ジっていうの!」
ダゴンとアナトの喧嘩はいつもの光景だが、コボルドはその隙を見逃さなかった。
「おまえはバカか? 敵に背を向けるなど……油断しすぎだ!」
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