パーティ結成
アナトの成長
第65話 探し物は転生勇者
大陸南より下、封印の島。太古に封印された魔王が住む闇の世界
そのレイスの薄暗い森の中を、二人の人間が歩いている。
一人は黒い槍を持った大柄で赤髪の男。
もう一人は銀髪の少女だった。
少女はこの暗き湿った場所にそぐわない姿。可憐さを持っていた。
年齢は十六、七才で高校性に見える。肩につくくらいの銀糸のような髪、細くて長身の美少女。
紅を基調にし、竜の刺繍が施されたコタルディを着ている。ブラウスの形や短い丈のスカートが若さと可愛らしさを醸し出す。少女の蒼き瞳は、強い意思と戦いのエナジィ(闘気)を湛えていた。
もう一人、赤髪の男は百九十センチを越える強靱な身体を持ち、銀色の鎧に身を包み、大きな盾を背負っている。鎧には対魔法用に、殆どの面に術式が書き込まれていた。身体から放たれる力への意思、紅いエナジィは歴戦の騎士の力を伝えてくる。
「なあ、一度エールに戻ったらどうだ? アナト」
男の問いにも立ち止らず、銀髪の少女アナトが答えた。
「あんたこそ、さっさと家に帰ったら? まだ夕食には間に合うかもよ? ダゴン」
少女はツンとしたまま、銀色の鎧を着ているダゴンをチラリと見た。
「はぁ~~」
ため息をついたダゴン。
「最近冷たいなぁ~~俺はアナトの手伝いをしてるのにさ」
アナトは歩調も変えず、関心なさそうに呟く。
「へーー手伝いだったの?……まったく気が付かなかったよ」
「二年前か? 初めてアナトを見た時は不味そうな子供だと思ったけど、最近大人になったな」
ダゴンが嬉しそうに言ったが、アナトは身震いする格好をして答えた。
「大人って……それマジで言ってるの? ダゴン今夜からあんたは、あたしから五百メートル離れて寝てよ!」
「はぁあ? 何を興奮してるんだ? 夜の見張りはどうすんだよ。おまえ寝ると起きないしさ。この前なんか、ドラゴンゾンビに踏まれそうになったろ」
キッと顔を向けて、それに続くダゴンの言葉を止めたアナト。
「これからは歩く時も十メートル以上離れて!」
そう言うと足を速めるアナト。置きざりになったダゴンが焦って追いかけてくる。
「ええっ? ちょっと待ってくれよ! お~~いアナト!……なんかまずい事言ったか!?」
アナトは心の中で大きなため息をついた。
(なぜだろう……ダゴンに大人になったって言われると、自分が女の子だと意識してドキドキしちゃう。もう二年も経つのか……この世界を訪れてから。確かに最初は貧弱な中学生だったけど、現代では高二か。背も伸びたし、スタイルが良くなったと思いたい。ついでに筋肉と体重も増えちゃったけど)
「おーーい! アナトーー! 待てよーーーー!」
「うっさい! も~~百メートル離れろ! ダゴンの馬鹿!」
ダゴンの後ろから迫ってくる声に、少し赤らめた顔を見られないよう、全力疾走に移るアナト。必死に追いかけるダゴンの声。
「あまえさっき言ってたより、離れる距離が増えているぞ!」
ガン。
アナトがダゴンに後へ足で石を蹴った。
頭に石が命中したダゴンが思わず反り返る。
「ばか! あぶないぞアナト! 何するんだこら!」
ダゴンは怒ったが、アナトはまたため息をつく。
「ダゴン……あのさ」
アナトが言いかけた言葉を遮り、ダゴンが続けた。
「アナトがご機嫌ナナメなのは……バアルの事でだろ?」
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