第63話 虹色の綿菓子

「立てアナト!  私の全てをあげるから……もう一度立ち上がって勇者」


 ナメコがアナトに声をかけてから、後方からから大砲の玉ような巨大なエナジィを撃ち出す。


 直線上の巨石の兵士を破壊しながら、放たれた光の砲弾はあたしに命中して光の爆発を起こす。


「ばかな……ナメコ。アナトを攻撃するなんて……気でも違ったか?」

 ダゴン振り返ると、ナメコが力を無くして倒れ込む。

「なに? どういう事だ?」


 再び前方を見るダゴンに、光の爆発の後に立ち上がった者が見えた。

 それはあたし……勇者アナト。


 あたしは倒れているナメコに語りかけた。

「自分の全エナジィを砲弾にして、あたしに打ち込むなんて……感じたよ。ありたっけの気持ち」


 あたしの回復した姿にも、アーシラトの冷たい瞳は動揺を見せない。

「あなた弱すぎるわ。自分さえ持てあましているのに、勇者となって人を救う? 今すぐ辞めた方がいい。子供は何も知らなくていい」


 あたしの頑張りなど、無意味だと冷たく言い放つアーシラト。


「そうかもね……何も知らないまま生きてきた。自分が他の人に守れらているなんて、今日初めて分ったくらい」

「自分の非力さと甘えが分ったと言うのか……じゃあ、自分で責任をとれ。この場で死ね」


 右手をあたしに差し伸ばすアーシラト。

「あなたのエナジィを渡して。何にも考えないガラス玉になって」


 あたしはポケットから紙の包みを取り出した。

 アーシラトが不思議そうに見ている。

「それはなんだ? おまえの奥の手か。随分と子供が好むものだな。クク」


 追い込まれた場面に出す、アイテムとして似合わない、七色に光る綿菓子。


「……これが本当のあたしを呼び起こす」


 紙の包みを開けて、中に入っている虹色の綿菓子を取り出す。

 おばさんからもらった綿菓子が強く光り始めた。


 七つの色が混ざり合い無限の色彩を放つ。


「あたしの色は一つじゃない、無限にある」

 七色に輝く綿菓子をあたしは口に入れた。


「美味しい……キノコのおばちゃん、ナメコ、バアル、ダゴン、お母さん、お婆ちゃん……あたしに新しい色彩を。可能性を頂戴!」


 あたしの蒼い勇者のエジィに新しい色が溢れ出す。

 混じり合うエナジィを見たアーシラトが初めて動揺を見せた。


「ばかな! エナジィの色は一つの筈だ!」

 あたしの身体を包む白いエナジィはナメコがくれたもの。

 ナメコが動揺するアーシラトに向かって言った。


「これが勇者アナトの力だよ。新たな色彩を生み出し大きな力を得る、その可能性は無限大だ」

 ナメコが打ち込んだ白いエナジィと、あたしの蒼いエナジィが混ざり合い新しい色を作る。


 それは空の青の色。


 空中の黒い魔法陣へと舞い上がる、あたしの新しいエナジィ。

 巨大な魔法陣は空の青色に包まれ消えて、雲ひとつ無い青い空へと変っていく。

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