第62話 渾身の一撃
次々に空中の魔法陣から、灰色の兵士が降りてきて、あたしに向かってくる。
左右の灰色の兵士の突きをかわして、空中へ飛ぶあたしに、ヤリを構えた兵士が迫ってくる。
突き出された数多くのヤリを、回転しながら昴でなぎ払う。
「これじゃ、アーシラトに触れる事も出来ない」
絶え間なく魔法陣から、降り立つ灰色の兵士。
魔女アーシラトが、黒銀の玉座の袖に肘を置き、口元を歪ませて笑っていた。
「クク。人間の勇者なんてこの程度なの?」
「あたしの力はこんなもんじゃない!」
蒼いエナジィが大河のように、あたし身体から大量に流れ出す。
パワー、スピード、魔力が一気に跳ね上がる。
エナジィが起こす蒼い竜巻を身にまとい、あたしは強引に前に進む。
百を越える灰色の兵士達が集まってくる。
「どけーーーーー」
怒りによってフルドライブされたエナジィは、さっき弾かれた灰色の兵士の盾を切り裂く。
敵から打ち込まれる魔法も、エナジィの蒼い竜巻で阻まれあたしに届かない。
「やるなアナト。本気出せば出来るじゃないか」
ダゴンが敵を倒して進むあたしを見て感心する。
「ダゴン、アナトを止めて!」
ナメコが、あたしの強烈な戦いぶりを見てあせりだしていた。
「あの使い方では……目覚めたばかりの、アナトのエナジィはすぐにつきる……」
アーシラトまで、もう数メートルまで近づいていた。
しかし逆にアーシラトの姿が、あたしにはだんだんと遠く感じられる。
手足が鉛のように重くなり、周りの蒼い竜巻も弱くなっていく。
ガキン、さっきまで簡単に切り裂いていた、灰色の兵士の盾があたしの剣を弾く。
「熱い……」
身体が焼けるような痛み。敵の魔法攻撃がエナジィを失ったあたしの身体を焼き始めた。
「動け私の身体……弾けろ勇者のエナジィ!」
空中に回転しながら飛び上がり、あたしの最後の力を一気に放出する。
『衝撃破 ラ・ソニックバースト』
あたしの一撃は前方の兵士を巻き上げながら、ついにアーシラトに届いた。
「ハァハァ……」
巻き起こる粉塵の中、地上に降り立つあたしは全ての力を使い果たしていた。
勇者の剣の昴は重くなり、地上に刺し顔を地面に下げる。
あたしの渾身の一撃を、アーシラトは右手でほおづえをつきながら、左手で受け止めていた。
「やっと届いたの。じゃあ今度は私からのプレゼント」
アーシラトの左手が輝き出す、詠唱は一瞬で終わり魔法陣が掌で回り始める。
『雷神降臨 ラ・ライトニングプレジャ』
アーシラトが呼び出した巨大な稲妻が、あたしの身体を貫く。
「くっ……」
もう立っていられない、あたしはその場で膝を落とした。
「アナト!」
敵をなぎ払いながら、あたしの元へと急ぐダゴン。
「シルバーナイト。もう間に合わない」
アーシラトは右手の中で、掌に白色のガラス玉を踊らせる。
ガラス玉はナメコの人間のエナジィを閉じめたもの。
「さて、勇者のどんな色のガラス玉になるのか……クク」
灰色の兵士達が、あたしを囲み、一斉に剣を振り上げる。
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