第61話 勇者の覚醒

 ナメコが急ぎあたしに指示を出す。

「アナト目をつぶって……そして感じて……わたしの中のあなたを感じて」

「ナメコ? あなたの中のあたし?」


 ナメコは頷き話を続ける。

「本当のあんたの知識と力を得るの。ダゴンがあいつらを引きつけている間に」


 あたしはナメコの言葉に従い、心を落ち着かせる努力を始めた。

 瞳を閉じて心を集中させると、そこにナメコのエナジィが流れ込んできた。


 あたしの心……広い草原が映り風が駆け抜けていく。


 真っ蒼な空……静かに流れる雲の群れ……風を身体に受けて気持ちいい。

 風に揺らぐ木の枝……吹き抜ける風の感触……緑の匂い……流れる川の音も聞こえる。


 五感を通して世界の色彩があたし伝わる。


 そして一瞬で、まるでさなぎが蝶になるように、あたしのエナジィが羽化した。

 世界のすべてに流れる……エナジィ……あたしの色は蒼。


 あたしの瞳が徐々に蒼く輝き始め、全身からも蒼い光が立ち昇る。

 全身に蒼いエナジィが満ち、あたしの手に力の循環が始まり、魔法陣が描かれていく。


『敵を打ち消せ ラ・シャイン』

 あたしの右手の甲に魔法陣が浮き出て光の魔法が発動した。


 質量のある光の雨が一帯に降り注ぐ。

 光の雨は灰色の兵士を貫き、大きなダメージを与え始めた。


「おいおい、オレを忘れてるぞ!」

 ダゴンが慌てて、槍を頭上で回転させ、あたしの魔法の光の雨を打ち消した。


 あたしは背中から勇者の剣の昴を紐ごと引きちぎる。

 もう重さは感じない……左手で鞘を抜き一気にその刃先を疾走させる。


 昴の衝撃波は、地面を削りながら四方に放たれた。

 衝撃波は灰色の兵士へぶつかり、その身体を砕き塵へと返す。


「この場で勇者の力に目覚めたというのか」

 呟くアーシラトの座る玉座を睨んだあたし。


「いくわよ!アーシラト!」

 あたしは両脚に力をため込んで、一気に解放し空中へ飛び上がる。

 勇者の剣があたしの蒼いエナジィを受け輝く。


 灰色の兵士達が、玉座の前に立ちアーシラトを守っていた。


「あんたら邪魔、そこをどいて!」

 ガキキン、盾で弾かれるあたしの剣。

 灰色の兵士の間から、あたしを見て笑うアーシラト。


「ずっとそこで笑っているつもり?」

 あたしはアーシラトを睨み付けた。

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