第56話 神殿の守り人
巨大な石の建造物の前に立つあたしにナメコが言った。
「着いたわ。ここが転移の神殿」
「どこから入るの」
あたしの問いに、ナメコが心配そうな顔をした。
「このまま真っ直ぐに進むと中には入れる。行くのはアナトあなた一人」
「ええ? なんであたし一人なのよ?」
「転移の神殿を動かすには、多くのエナジィが必要なの」
「どうゆうこと?」
「エールに飛べるのは、あなた一人って事よ」
意を決して奥へと進むと、神殿の入り口が見えてきた。
アーチを描く神殿の入り口に手をかけて中に入る。
神殿中は真っ暗だった、壁沿いに手をかけながら先へ進む。
かなり進んだと思った時に、急に灯りが点いた。
そして前方にうっすらと影がたち、どんどん濃度が上がっていく。
神殿の守り人が現れた。その姿は人間と悪魔を掛け合わせた姿していた。
アークデーモン、強力な魔法を操る上級に坐するモンスターだった。
「何の用だ?」
アークデーモンの問いにあたしが答える。
「ここを使ってエールに行きたいのですが」
「ふむ。ここのジャンプを使うには、6000億エン必要だが」
「そんなの持ってないよ」
「では、使用許可は出せないな」
あたしはナメコに教えられたように話を始めた。
「我こそは伝説の勇者アナト。この世界を救う為に急ぎエールに飛ばねばならない。さあ、勇者の証としてこの剣を良く見るがいい」
背負っていた重い剣を必死に降ろして、よたよたしながら守り人へと渡した。
「……ふぅう」
あたしのため息とヨタリ具合を見て、番人は巨大な角がある頭を傾げた。
「たしかにこれは勇者の剣である昴。だが持ち主にしてはふらふらじゃないか?」
「えーーと、ほら、そう簡単にその剣は使えない設定なの」
「使えない設定?」
「使う必要が無いじゃない? 中ボスとかじゃないとね」
「中ボス?」
「ほら、ゲームでも序盤は鉄の剣とかで十分だし」
「よく分らんが、勇者ならその剣を抜いてみろ」
「ええ!?」
「この昴は勇者専用の剣。おまえが本物の勇者なら抜けるはず」
「えーっと、それはどうでしょう?」
アークデーモンは疑惑の目であたしをジッと見た。
「もし、この剣が抜けず、おまえが偽物の勇者なら……」
「もし抜けなかったら?」
「ここで……丸かじりかな」
「ええ! それは……食べるのは好きだけど、食べられるのは嫌!」
焦りまくりのあたし、このままでは丸かじり決定、その時、あたしの背中から声が聞こえた。
「まったく、困った娘ね」
あたしの背中につかまっていたナメコが、トンと地面に飛び降りた。
「ナメコ、いつの間に……」
「最初からよ……さて門番よ、あたしはエールの巫女である。お付きの者として証明しよう、この娘は勇者であると」
ナメコの身体が輝き、白い光が神殿の中を照らした。
「おお、その白いエナジィは確かにエールの巫女の証。分った、ジャンプの準備をしよう」
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