第55話 ダゴンの太い首
「いまさら優しく言ってもダメよ。何か知っているなら今教えてよ!」
ナメコが懇願する。
「お願いだからアナト、動かないで!」
「だから今更優しく言ったって……」
ナメコに向かって一歩踏み出した時、ガラガラと足下が崩れ落ちた。
「まずい! ダゴン、アナトをつかまえて!」
あたしが地面だと思った草地は、土に雑草が伸び生えただけ。
あたしの体重など、支えられるわけもなかった。
「くそ、間に合え!」
ダゴンがあたしの方へと素早く踏み込み手を伸ばす。
だが、運悪くダゴンの踏んだ場所も草地だった。
地面を踏み抜いたダゴンは、素早く固い地面に飛んだ。
ほんの少しだけダゴンがあたしを掴むのが遅れた。
「きゃああ」
叫び声を上げてながら、崖から落ちるあたしにナメコが呪文を唱えた。
『軽やかに舞え ラ・フライト』
急速に落下するあたしの身が、ガクンとショックを受け、落下速度が遅くなる。
ダゴンが驚いてナメコを見た。
「空中浮遊の魔法か? ナメコ、おまえは魔法使いなのか?」
「一応アコライトとして、魔法の修行を受けているわ」
ダゴンはほっとしてナメコに礼を言った。
「助かったよ。さすが王様が道案内に選んだ事はある。大したもんだ」
ナメコは首を振り応えた。
「あんまりいい状況じゃない。ここから下に降りて、あの世間知らずの娘を探すのは大変だよ」
ダゴンが不思議そうに聞いた。
「オレとおまえでフライトの魔法で追いかければ……」
「あの娘が黙って待っていられればな。この下はコボルトの巣だ」
「なんだと!?」
「ダゴン、急ぐぞ!」
ナメコが空中浮遊の魔法の詠唱を開始した。
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「おいアナト、起きろ!」
(うん? この無駄にデカイ声は……ダゴン?)
目を開けると心配そうなダゴンとナメコが立っていた。
「あれ、あたし崖から落ちて……」
安心して大きく息をついたナメコ。
「あんたが心配で、急いでダゴンと一気に降りてきたわ」
横でナメコと同じように安心しているダゴン。
「コボルトに食べられたかと思って心配した。探すの大変だったぞ」
ダゴンはあたしの頭に手を置き撫でた。
「あ、あたし気を失っていたんだ……ありがとうナメコ、ダゴン。あたしは大丈夫だよ」
頷くダゴンとナメコ。
「それじゃ、先に進むか」
「ちょっと待って……あたし、まだ怖くて」
落下した時の恐怖であたしは、膝がガクガクして立っているのもやっとだった。
「フッ、アナトでも怖い事あるんだな」
「あたりまえでしょう!」
「でも時間が無い……仕方ない、大人しくしていろよ」
ダゴンはそう言うとあたしを抱き上げ、自分の肩に乗せそのまま歩き出す。
「ねえ、なんか、恥ずかしいよ……子供みたいだよ……ねえ」
初めは恥ずかしそうにダゴンに、しがみついていたあたしは、しばらくすると無口になっていた。
「おや? 静かになったわね」
横を歩くナメコがダゴンの肩を見ると、ダゴンの太い首に頭を預けてあたしは眠っていた。
「ダゴン、しばらくこのままで」
ナメコの言葉に、ダゴンが頷いた時、暗き森の夜が明けた。
少しずつ天空の大きなレンズが明るくなっていく。
大きな石組みの建物が見える。
「着いたぞアナト。でもこれからが本番だ」
天井のレンズから射す光を見つめながら、ダゴンは優しくあたしの頭を撫でた。
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