第54話 新しい仲間
牢屋に一日宿泊、昨日はキノコの街にお泊まり……予定が大幅に狂っている。
同時にムッスっとした顔のままのあたし。たまりかけてダゴンが諭しにかかかる。
「あのさ、そろそろ怒るの止めたらどうなんだ?」
ダゴンがさっさと先を歩くあたしに声をかけた。
「大食らいなんで……先に行かないと」
「ふぅう、おまえって結構執念深いな」
「ええ、簡単には忘れませんよ、騎士様」
キノコの国で捕まったあたしは、王様の命令で釈放してもらった。
たしかにそれはダゴンのおかげだが、ひどい目にもあった。
「まったく、犯罪者のくせに生意気だな」
あたしの前をチョコマカと歩く、キノコ人があたしに言った。
キノコの国であたしが見たキノコ人は、みんな白っぽい色だった。
でも目の前を行くキノコ人は桃色で、大きさもかなり小さい。
あたしはキノコ人に負けないように、大きな声で返した。
「キノコに言われたくないわね」
桃色キノコが立ち止まり、あたしを振り向いた。
「キノコじゃないわ、人間の娘よ、わたしの名前は巫女イル……いえ、今のは無し。好きに呼びなさい人間の娘」
「じゃあ……ナメコ」
「……どうゆう冗談かしら? ナメコって……あたしは桃色だしネバネバしてないし」
「何でも良いって言ったじゃない!」
「だからキノコから離れなさいよ!」
ジッと目の前の小さなキノコを見るあたし。
「……やっぱりナメコがぴったり」
「……もういいわ! 好きに呼びなさい」
あたしがキノコの国で捕まったせいで、旅の行程が遅れてしまった。
「悪の計画を止める為に、現代から来た勇者」……キノコの王様はあたし達に道案内をつけてくれた。
それがこの生意気なキノコ人。
「ああ、面倒くさい、なんでわたしが世間知らずの人間の小娘の世話なんか」
どうやら女の子らしいナメコ。道案内としては優秀なようだ。
ナメコのおかげで旅の遅れは取り戻せそうだが、あたしのテンションは下がり放題。
「なんでこんな破壊的に口が悪いの? キノコのくせに……」
あたしの小さな呟きを聞き逃さなかったナメコ。
「食べても不味そうな、人間に言われたくないし」
「なんですって!」
見かねたダゴンが仲に入る。
「あ~~もう、おまえらいい加減にしろよ。言い合いする力が残っているなら先へ進め」
クルリ、あたしとナメコがダゴンを振り向いた。
「うるさいわね! 脳筋は黙っていて!」
「はぁい、分りましたよ」
女の子二人にはさまれて、諦め気味にダゴンはため息をついた。
「……それでナメコ、転移の神殿は近いのか? こんな道はオレ通った事ないぞ」
「あんたもナメコ呼び?」小さなキノコは振り返らず、歩いたままでダゴンに応えた。
「無駄に馬鹿デカイだけの人間に、真の森の道なんか分る筈ない……あと半日くらい」
「良かった。助かるよ」
トテ、トテ、急ぎ足で進むナメコが、チラリと後ろのあたしを見た。
「良くないんじゃない? エールに行っても、何のあてもないんでしょう?」
ナメコの言葉は確信をついていた。
そうなのだエールに着いてからの事は何も決まってない。
痛いところをつかれたあたしは、逆ギレ気味に返事をした。
「なによ、さっきから……エールに行けばなんとかなるわよ」
ナメコがまたチラリとあたしを見た。
「ここからは、崖沿いに歩くから気をつけなよ」
まもなく大きな一枚岩で出来た赤い崖の上に出た。
所々枯れ草に覆われて足下が見えない。
崖の高さはかなりあって、落ちたらただでは済まないのは一目で分った。
「エールは大きな街だ。本当に情報が無くて大丈夫?」
ナメコにまた痛いところを突かれ、あたしが大きな声で反論する。
「だから! 大丈夫だって! ナメコだって何にも知らないでしょう?」
「あんたよりは事情は多少知っている……あ!」
「そうか……知っているのか……って、ええ!?なんでナメコが知っているのよ!」
「待ってアナト、動かないで……」
立ち止まりあたしを振り向いたナメコは、諭すような口調に変った。
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