第42話 あたたかい背中

 この世界で初めてのフレンドも出来て、安心して、お腹いっぱいなったあたしは急に眠くなってきた。

 我ながらげんきんだ。


「ふぁあ~~」

 大きなあくびが出たあたしをダゴンが見た。

「おや眠くなったのか。俺が見張るからアナトは眠ればいいさ」

 ジロリとダゴンを見たあたし。


「そんな事を言って、眠ったら丸焼きになったりしないでしょうね!? さっき、こんがり焼かれそうになったし……冗談だと言っていたけど目が本気だったぞ……ダゴン」


 もうアナト、異世界のあたしの呼び名が普通になっている。

 あたしの疑惑の視線に、首を左右に振りダゴンは「そんな事はしない」と言った。


「さっき挨拶をしたろ? 握手をしたおまえは仲間だ。決して裏切りはしない」

 完全に信じたわけではないけど、眠気が襲いかかってきて、あがなう事が出来ない。


 あたしは毛布の上に身体を横たえ、目を閉じるとすぐに意識が遠くなった。



「……うん?」

 深夜に目が覚めると、焚き火の火を切らさないように、ダゴンが薪をくべている。

「寒い……」


 いつもお母さんが干してくれた、ふかふかの布団で眠るのが普通で、外で眠ったのは初めてだった。

 寒さに身体を丸めるあたしを見たダゴンは、自分の大きな背負い袋から、もう一枚毛布を取り出しあたしにかけてくれた。

「ダゴンありがとう……暖かいね」

 毛布を与えられたあたしは、目を閉じて心地良く眠りについた。


……朝日が射してきた


 木の枝が生い茂り殆ど光が射さない暗き森では、微かな日差しも貴重だ。

 その僅かな光を感じあたしは目覚めた。


「よう……起きたか」

 ダゴンは徹夜であたしを見ていてくれたようだ。

「あ、おはようダゴン。昨日は寝れた?……あたしに毛布を掛けてくれて……その」

 感謝がうまく話せない、いざというときの内気な性格……あたしの悪い癖。


「おまえが身体を丸めていたからな。毛布も余分に持っていたし。たいした事じゃねえよ。それより俺も少し眠るから見張りを頼むぜ」

「うん」


 すぐに眠りについたダゴンの横で、あたしはダゴンにかけてもらった毛布をたたむ。

 現代では物は豊富にあって、毛布のありがたみなんて感じる事なんかない。

 暖かい事やお腹が空いていない事、そして一人じゃない事。

 そんな事は当たり前だと思っていた。


 しばらく毛布を膝に置いてたき火を見ていた。

 パチ、パチン、弾けるたき火の音以外は、時折流れる風のささやきしか聞こえない。

 現代であたしがどんなに多くの音に囲まれているか初めて分る。


 しばらくするとあまりの静かさと、暗き森の薄暗さから心寂しくなる。

 その時はダゴンの大きな背中と、深い寝息が安心をもたらしてくれる。

 自然にあたしはダゴンの側に近づいていく。


「……うん? どうした?」


 いつの間にかピッタリと側に寄り添った、あたしの気配に気がついたダゴンが目を覚ます。


「え、ちょっと寒かったから、ダゴンの身体を風よけにしようかと」

「そうか、オレの身体はデカイから、そんな時は便利だよな」

「え、ええ、そうね」


 ダゴンの言葉を聞いて、少し驚いたあたしは思わず確認する。

「ダゴンは……あたしに……えっと……ついて行ってくれるの?」

 ダゴンは眠そうに、だがハッキリと言ってくれた。

「何を今更言ってるんだ。いくよ。仲間だろう?」

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