第41話 あたしは勇者アナト

 大きくため息をついた目の前の赤髪の男。

「ではまずは、おまえが何をしにきたのか教えてくれ」

 聞かれたあたし昨日あったままを答える。


「おばあちゃんの家で、たらふく食べて眠ったら、紫の渦から手を伸ばした男の子を捜しているの。あなた知らない?」

 男は腕組みをしながら聞き直す。

「そんなのでわかるか! ふぅ、でそいつの名前は?」

 あたしは夢で見た男の子の名前を口にする。

「バアル」


 え? 名前を知ってる? なんで? 考えるあたし。

 そしてこれも口に出た。


「転生勇者のバアル」

 おかしいなあ、なんで勇者とか名前とか、あたしにわかるんだろう……それに夢でしか見たことしかないのに、本当に存在しているのか疑問だし、この格好や世界、異世界は本当に存在するの? 夢を見ているだけじゃないのかなあ?


 なぜかあたしは、転生勇者バアルを知っていた。


 もしかして、あたしも転生して姿も記憶も、変えられてしまったのかなあ。

 今ここで感じているものが全て、目の前の赤髪の男も暗き森も全て、が夢ならいいと思う。


 今度はゆっくりと説明すると、赤髪の男から一つだけ答えがあった。

「夢で呼びかけられた? 中学? 春休み? おまえの言ってる事はほとんど分らないが……現代……それなら聞いた事がある」


「あたしの世界を知っているの?」

 赤い髪の男は笑みを浮かべた。

「おまえもこの異世界を知っているじゃないか」


 現代と異世界との繋がりがある、と言われ驚きながらも納得する。

「もしかしてあたし達が見る夢って、この世界と関係あるのかなあ。ゲームやアニメに書かれた世界と同じ感じがするし、想像のかけ離れた世なのに、なぜか理想のように感じられるの……でも」


 不思議な事が多すぎるて、悩みモードに入ったあたしに、赤髪の男は手を伸ばしてきた。


「とりあえず挨拶だ。よろしくな。俺のはダゴン・サード。ダゴンと呼んでくれ」

 あたしもつられるように手を伸ばし、お互い手を握りながら改めてその姿を見る。


 赤髪の精悍な顔だちで二メートルもの巨体に、金色の鎧に大きな盾と黒い長い鎗を持つ。まさにファンタジーの世界に金色の騎士。


「職業はナイトだ」

 強く握りられた手と共に告げられた、赤髪の男の名前とジョブ。

「やっぱり見変え通りだね。あたしはアナト」

 やっぱりナイトなのね。あれ、また自然に名前が出てきた。やはり転生したのは間違いなさそうだ。


「職業は……中学生かな? あ、勇者らしいよ。召喚勇者アナト」


 あたしが意識せずに異世界での自分の名前とジョブを言うと、力を込めて握手を返しながら笑顔をくれた赤髪の騎士ダゴン。


「おまえの言っている事は解らない事だらけど、よろしくな勇者アナト」

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