第40話 あたしの事情
「ガツガツガツ、ゴクゴクゴクバクバクバク、ゴキュゴキュ、ズズズズズ」
うは~~。自分でも思う程の凄いあたしの食いっぷり。女子度ゼロ。
なんせ丸一日以上、何にも食べてないし水すら飲んでいない。
あたしと事情を知らないので、人間離れしたあたしの食べっぷりに驚く赤髪の男。
「その食いっぷりは……おまえ人間じゃなくてオウガの子供か?」
オウガは強靭な肉体を持ち、凶暴で残忍な性格で人の肉を食べると言われるモンスター。これはあたしのファンタジー物からの知識だけど。
目の前の男の表情を見ていると、この世界にはオウガは存在していて大食らいなモンスターらしい。
「バクバクバク、ゴキュゴキュ、ズズズズズ……ゴホゴホ」
一気に流し込んだ食べ物と水に、むせ返すあたしを見て、赤髪の男が驚きを通り越して呆れはじめた。
「ちっちゃな身体で良く食べるな……やっぱりおまえオウガの子供?」
「違う! ズズズズズ」
ちゃんと否定したい、あたしは普通の女の子。
いつもなら内向的でこんな醜態は見せないと。
でもお腹が空いているので食べ続ける。
暗闇に広がるたき火の光の中で、しばらくあたしの食べる音だけが響いた。
「はぁあ~~落ち着いた」
お腹が落ち着いたあたしが、人間らしい言葉を発した。
「ガッツリお腹が膨れて、人に戻って来た感じがするね」
男の分まで食べきった肉。サラマンダーの、ものらしいが美味しかった。
「この世界に来てからあたし、行動も話し方も乱暴になっている気がする。気をつけねば誤解され……」
しかし、目の前の男の目は、誤解を通り越しているようだ。
「まあ。どうでもいいか」
南国へ旅行に行くと細かいことは気にしない、アバウトな考えになると聞いた事がある。
異世界でもそんな感じで。
だが赤い髪の男は、突然現れたあたしの凶暴な行動によそよそしい。
それを感じてムカッとしたあたしが、珍しく気持ちをストレートに出す。
「あのね! あたしは普段はもっと女の子らしいの。クラスでも結構人気ある。と思う」
男がやっと口を開いて、あたしに疑問を投げかける。
「おまえの言ってる事はさっぱりだ。ところでおまえはどこから来た? この森はおまえのような、世間知らずの女が来れる所じゃないぞ!」
粗暴で大食そんなキャラになっているあたしは、そのイメージ通りに大きな声で話す。
「あたしだって来たくなかったわよ! こんなとこに! 紫の渦の中の男の子が悪いの!」
ガバッと立ち上がったあたしに、目を白黒させながら男が言った。
「じゃあ、来なけりゃいいじゃんかよ!」
「あんたね! 人には色んな事情があるのよ! なんでこんな所に飛ばされたのかさっぱり分らないし、可愛い美少女をこんがり焼いて食おうなんて、あなたいったいどうゆうつもり?」
男はまたそれかといったふうで首を振った。
「ちょっと待て。だから焼いて食おうは冗談だって何回言えば……それにおまえの言うことがいまいち分らん。もっとわかりやすく頼む」
現代とあたしの事情を混ぜた込んだ言葉に、赤髪の大きな男は混乱していた。
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