第43話 七つの国

 ダゴンはあたしが使って眠った、毛布を受け取って背負い袋に入れた。

 他にもキャンプで使った食器類も仕舞い込む。

 旅の出発の準備だ。あたしの目的は夢の男の子バアルを見つけ出す旅。

 赤髪の騎士のダゴンは、知り合ったばかりのあたしに、付き合ってくれるみたいだ。


「ね、ダゴンの袋ってあたしが入れそうな大きさだよね。何が入っているの?」

「あ、食い物とキャンプの品。あと傷薬かな。これくらい準備しないと暗き森は抜けられない」

「暗き森?」

「ああ、ここはそう呼ばれている、大陸の南の封印の島の一部だ。地図見るか?」


 大陸には人間、獣人、神人、竜人、魔物、機械人と多種多様な種族が存在するらしい。

 種族の違いは違う容姿、違う力、違う価値観、を生み出し戦いが絶える事は無いとダゴンは教えてくれた。大陸には七つの国が存在するようだ。


 大陸北部(エール)人間のユートピアがあると噂されている。

 大陸西(アークランド)エンジェルと呼ばれる機械化された種族が住む。。

 大陸中央(ゴース)三十年前に大陸を平定したマスティマ女王の国。

 大陸東(ヤム・ナハル)獣人の国。他国との争いが多い。

 大陸南(ドライグ)ドラゴニュート(竜人)の国でドラゴンの末裔が住む。

 大陸南より下(フウインノシマ)封印の島。太古に封印された魔王が住む闇の世界

 大陸西より右(ジパング)サムライの国


 あたしには聞きなれない地名も、この世界に住人のダゴンには、ありきたりな事で眠そうに説明する。


「ほれ、今いるのはこの辺だな。封印の島の中央のあたりに広がっている暗き森……それにしても、ふぁああ眠い」

 話の途中で大あくびをした赤髪の大男ダゴン。


「この世界って広いのね。人間が住む国もあるのね。ジパングって日本と関係あるのかな?」

 私は昨夜の事を思い出して話の内容を変える。

「ごめんね、昨日は遅くまで見張りしてもらって……少しは眠れた?」


 赤い髪をボリボリかきながら、ダゴンは首を振った。

「おまえが毛布をたたんだり、広げたり、たき火を見たり、オレの側に移動したり、離れたり……そんであまり眠れなかったな」

 ダゴンの言葉に、みるみる頭部に血液が集結してくるのが分かった。


「な、なに、起きているならそう言ってよ!」

 フフとダゴンが笑い、真っ赤になったあたしが続けて文句を続ける。

「あのね、のぞき見は良くないよ……特に若い女の子を、コッソリと見ているのは絶対だめだし、それに……」

 笑い顔から真剣な顔に変わった赤髪の騎士ダゴン。


「まだ文句はつづくのか? アナトは気がついていたか。おまえが寝てるときにコボルトが近くまで来ていたのを」


 あたしの文句が終わる前の、ダゴンの言葉に驚き聞き返す。

「コボルト? 犬みたいなモンスターの事?」

 ファンタジー好きなあたしの、読み物の知識に感心したダゴン。

「ほう、良く知っているな。さすが勇者の名を名乗るだけはある」

「え、いや~~ファンタジー小説とか、魔法少女アニメに出てくるので……」

「あ? 小説は分るが、あにめってなんだ?」


 今、ダゴンとは普通に話せている、でも、ここはあたしが暮らしていた現代とは違う世界だ。モンスターが普通に存在する。

 コボルトが近づいた時、あたしに言ってくれればよかったのに……


「見たかったなあ」

「はぁ? コボルトが近くにいると?」

「うん、そうしたらあたしが……こうズバッと」

「アナトがオレを守ってくれたのか?」

「それは無理だけど……ちょっとくらい活躍」

 あたしの、にわか勇者の意見を聞いたダゴンは、大きくあくびをした。


「それは失礼したな。おまえを怯えさせる事はないと思った。現代から来たばかりなんだろ? 剣とか使えるのかな。背中の剣かなり重そうだが?」

 にわか勇者ぶりを簡単に見破られ、まあ、そうだろうけど、ダゴンの重荷にはなりたくないなあ。


「少し寝ればオレは十分だ。それに、アナトはたき火を絶やさなかったろう?」

「それでコボルトが寄ってこなかった?」

 にわか勇者の知識でモンスターは火を恐れる、と言ってみたがダゴンは笑った。


「ハハ、コボルトは火なんか恐れないさ」

「じゃあ何?」

「たき火が暖かかった……一人じゃないっていいもんだな」

 ダゴンはあたしの肩に手をやり、笑顔をくれた。

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