第19話 勇者として
そこからは俺でさえ気持ちが悪くなる情景が続いた。
リーダ達を殺された反乱軍は、指揮系統を失いパニックになり後退を始めた。
そこへ、新たな軍勢が襲いかかかる、草原に身を隠していた獣人軍である。
野獣の圧倒的な個別の戦闘力で、逃げようとする反乱軍を捕まえ斬り刻んでいく。
側面から一気に迫った獣人軍に、反乱軍の隊列は乱され散り散りになり、もはや退却もままならない。
逃げ惑う人々を、血に飢えた獣と化した獣人が襲うのを見ながら、アガレスは呟いた。
「冷徹それが戦いの前提だ、そうでなければ首をはねられる。意志と心が状況によって変わってしまう人間など戦いに出るべきではない。結果は……あっけないものだ」
ソウルイータが息をするように瞬き、刃に付いた血とエナジィを吸いつくす。
それが終わるのを待って、アガレスがソウルイータ背中の鞘に納めた。
「さすが、ダークナイト……アガレス様。無敵の将軍だ。五百の兵で五千の反乱軍を打ち負かすとは」
俺の怒りを抑えるうめき声をかき消した、アガレスの軍勢が歓声、10倍以上の大群を退けたアガレスを賞賛する。
俺の表情を読み取り、喜ぶ兵を城の窓から見る、ライオンに似た姿の巨大な獣人、獣王アスタルトが呟いた。
「まったく……品が無い」
アスタルトは呟くと、俺の側から去ろうとした。
だが俺はもう限界だった。
エナジィが自然と高まり、窓に打ち付けていた分厚い板をぶち壊し、飛び降り壁を蹴り、直接に暗黒騎士の前に立った。
「アガレス……おまえを許さない」
俺の行動に驚いた獣王。
「バアル!?」
返りかけていたアスタルトが、窓から乗り出す。
俺とアスタルトを抗議に見たアガレスは、口元に笑みを浮かべた。
「クク、さて……どうするのかな? 少年よ。まさか責める気かな。私は戦争をしているのだよ」
前に進む俺を見下ろすダークナイト。
「アガレス……オレと勝負しろ!」
「バアルめ、あれほど目立つなと言ったのに」
思わず気持ちが口に出たアスタルトに、アガレスは訊ねた。
「少年は勝負と言ってるが。私はどうすればいいかな? 獣王」
俺は勇者を無視したアガレスに怒りを向ける。
「なんで、アスタルトに聞くんだ! 俺と勝負だアガレス、こっちを見ろ!」
チラリとだけ俺を見たアガレスは、アスタルトに再び尋ねる。
「……だ、そうだ。どうすればいい? この収容所の所長として獣人の長として、答えはいかに?」
無視され続ける俺の瞳が翠に変化し、体中からゆらゆらと立ち上るエナジィ。
収容所で俺は勇者の力、竜力を高める為にエナジィ(闘気)の強化を進めていた。
獣王に訓練され、解放された俺のエナジィは、翠色の光を誰にでもわかる程に成長していた。
「ア・ガ・レ・ス! こっちを向け!」
攻撃態勢をとった俺に、無防備に立つアガレスの間を、巨大な影が一瞬遮断した。
「なんで……アスタルト」アスタルトの拳を、みぞうちに受けた俺は崩れ落ちた。
まさに刹那、その場の全員が何が起こったか分からなかった。
気絶した俺の身体を巨大な腕で抱えた獣王に、アガレスは嬉しそうだ。
「フフ、二百五十キロを越える強靱で冷静沈着な獅子。そのスピードはいささかも衰えていないようだな」
アガレスの問いには答えず俺を肩に担ぎ、軍の中を歩き出すアスタルト。
兵士の中にはアスタルトを止めようとする者もいたが、自分の意思に逆らう身体が動かない、殺気を見せる獣王に震え出す者もいた。
無人の野のごとき歩く獣王の身体から、強烈な戦いのエナジィが発せられていた。
まるで我が子を守る猛獣の覇気であった。
「アスタルト。その少年はお前が自ら裁くのだな?」
アガレスの言葉を後ろに、獣王は城へ入っていく。
次の日、俺の処刑が行われる日が牢獄の立札に書き出された。
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