第20話 アガレスの思慮

「目が覚めたかい」老人が声をかけてきた。

「あれ、俺はどうしたんだっけ」起き上がるとわき腹のあたりが痛い。

「獣王がおまえを救ってくれたんだよ」老人は答えた。

 俺は収容所の粗末なベッドに寝かされていた、付き添ってくれたのは俺が獣人の看守から救ったお爺ちゃんだった。


 宰相だったというお爺ちゃんは、俺が二日も気絶していた事と、死刑執行が決まった事を教えてくれた……うん? 死刑だって!

「おいおい、マジかよ」


 俺は母である大魔王に、戦時中だったゴース公国へ送り込まれ、反乱軍、今はこの地を制したレべリオン軍に捕まり、監獄の中で半年以上も暮らしていた。

 俺が牢獄に居るのは獣王と、この国を落とした暗黒騎士アガレスの思惑があったから。だが、戦争の悲惨さにアガレスに腹を立て、つい向かって行ってしまった。


「英雄アガレスがここまでやるのには訳があるんだ」

 お爺ちゃんが昔話を始めた。


 かつて時代は戦乱の中にあった、マスティマ王女は全土から集めた騎士団で、力ずくで大陸を平定した。だが、古い王の血筋を主として沿えた為に、十年後に大陸は乱れ始め、十年前に永遠の平和をもたらす為に、マスティマと騎士団は神人(カミビト)に会い、実力を示し推挙を受けた……ここまで聞いて疑問がわき聞いてみた。


「神人ってなんなの? 神様とは違うの?」

「そうだな、神人は神になるまであと一歩まで進化した者たちの事かな」

 お爺ちゃんは、説明を分かったような、わからないような……そんな俺の様子に説明を増やした。

「まだ欲と自己意識があるが、神と同等の力を持つ者だよ。私たちが敵わない絶対的な人種だと思ってくれればいい」


 その後にマスティマ女王に起きた事を聞いた俺は、少しだがアガレスの行動が分かった気がした。


 推挙というのは、大陸の主として神人が認める事……だが、それはマスティマ女王自身の消滅だったんだ。女王は機械化され、たくさんの戒律を神人に組み込まれ、冷静に平等に大陸を統治できるように改造された……三十年前の大戦後に夫婦になったアガレスは、機械化されたマスティマに絶望した……子供も一人いたのに、もう妻は政治的な事しか話さない人形になってしまったから。


 俺は思った、愛する人が人形に変えられてしまったら、さすがに普通ではいられないだろう。そこに魔王ラシャプと魔女アーシラトが策略を持って、この国を侵略したという。それにアガレスは協力したわけだ。それは人形になったマスティマを眠りにつかさせたい、そして国を奪われても自身で、マスティマのゴース公国を存続したい気持ちからだろう。俺には理解できないが戦いでは冷徹に相手を徹底的に叩かないと、争いが続くものだとお爺ちゃんは話していた。


「おう! 起きたかバアル。まったくアガレスは味方ではないが、敵でもないぞ」

 獣王と暗黒騎士の二人は俺が、レべリオンのリーダーに会うことを心配していた。


 旧知の二人はこの戦争では意見が違うようだが、転生勇者である俺を隠し、同時にエナジィ(闘気)この世界の根幹になる力の習得させようとしていた。


 すべては二人の間での秘密で、他に知っているのは俺くらい。


 ただ、さすがに半年も外に出られないのはストレスが溜まり、形だけ監獄の所長に就いている獣王アスタルトに愚痴をタラタラ流していた。


「ねえ、アスタルト、さすがにそろそろここを出たいんだけど」


 俺の言葉に考え込んだ獣王でありここの所長。

 俺は監獄内ではかなり自由に動けた。

 アガレスが獣王をここの所長にしてくれたおかげだった。


 無言のアスタルトに気になる事を重ねて聞いた。

「もう一人の転生勇者にも会ってみたい」


 最初に倒した魔王が言っていた「転生勇者は一杯いる」でも、俺は他の勇者には会ったことがない。

 どうやら、この世界では異世界転生を起こした勇者であっても、簡単に倒されるような巨大な力が複数存在するようだ。


 確かに俺が見たエール公国のアイネは、とんでもない実力者で、獣王も戦う姿を見たことはないがメチャ強そうだし、身近の母は大魔王だし、姉は大妖怪で大陸で魔女として超有名。


 なかなかの転生勇者にとって受難の世界だ。


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