第5話 サンダーバードGO!

 姉の部屋から一階に降りてきた。いつのまにか手汗が……それに少しクラっとする。とてつもない妖気にあてられたのか。実姉といえど俺の事は虫ぐらいにしか思ってない。


 俺が下に降りると一体の巨躯が大魔王と親しげに話していた。

 その姿は人とライオンを合わせた獣人。


 獣人……この世界の神話の時代に、猛獣と人間を合成する高度な魔法技術で造り出された、屈強な兵士だと語られている。

 獣人のベースは人間であるが、ライオン、ヒョウ、オオカミなど合成の元になった猛獣の特徴を有している。人々が恐れる獣人の闘争心は猛獣が持っていたものだが、いつも戦いに身を置いてきた事も大いに影響している。


 そしてそこにいるライオンの姿をした獣人は我が母と親友で獣人の王である。

 獣王アスタルトそれが体重280キロ身長2メートル58センチの名前である。


「……おお、なんだまだまだ小さいな。肉は食ってるようだが。牛乳が足りてないと見た。一日、10リッターは飲まんと背が伸びんぞ」

 獣王アスタルトは親しげに俺に近づいてきた。

 俺はちびじゃないし、そんな無茶な食生活はできない。

「いつも言っているけど、そんなに飲んだら腹壊すって」


 がははは! 俺の返事に喜び俺の胸や背中を叩き、めちゃくちゃでかい口で大笑いした。


 その後気になる台詞が飛び出る。

「なあ大魔王。まだバーンってやらないのか? 俺はそれが楽しみで昨日十二時間しか寝られなかった」

 視線の先の大魔王はうっすらと笑いながら返事をよこした。

「そんだけ寝たらじゅうぶんでしょ? まったく。あのねそのバーンってのは秘密なの。それにしても……まだ立っている」


 大魔王の言葉に俺を大魔王と獣王が見た。


「うんむ。確かに。以外としぶといなこんなに痩せてるのに」

 俺をまじまじと見る獣王から逃れるように一歩後ろに下がる。

「なんだよ。なんでじろじろみるんだ……あっ」

 なにげに触った首筋にわずかな違和感。それを指でつまみ引っこ抜く。細くて短い含み針。


 針に気が付いた俺を見ながら獣王が首を振る。

「刺さっているぞ……姉に頼んだよな? 大妖怪なら、こわっぱ勇者ごときの暗殺の失敗はないだろう?」


 獣王の不穏な言葉に右の人差し指を前にだして「しー」のポーズの大魔王。

 暗殺? 姉に頼んだ? この針はそれか。真剣な目で大魔王を見ると俺に鼻歌気分で答える大魔王。


「ちょっと行って欲しい所があってね。いや~~簡単には行かないと思ってさ。姉に筋肉弛緩剤を注入させたんだ。シロナガスクジラでも動けなくなるやつをね」


 俺は怒り表すために、一歩前に出て中指を空中に突き出した!


「ふざけるな。なんで俺がおまえらの標本にされるのだ! だいたいな、こんなちっぽけな針で勇者の動きを止めようなんて……あれ」

 俺は床にバタリと倒れた。まったく動けん。


「お、効いたか! やったな!」喜ぶ獣王と大魔王。

 幼いときに姉に階段から突き落とされたり、風呂場に頭から突っ込まれ溺れたり、走馬灯のように浮かぶ、姉の弟への暗殺未遂の数々。


 上機嫌になった大魔王は踊りながら謎の準備を進める。

 

 ♪ちゃちゃらちゃ~♪~たた♪~ちゃちゃらちゃ~♪


 子供のころ聞いた人形劇の音楽を口ずさむ大魔王と獣王

「作戦実行よ! ファイブ フォー スリー ツー ワン……サンダーバードGO!」

 (おいおい、THUNDERBIRDS ARE GOが正しいだろう? AREが抜けてるって)と言いたかったが、体はおろか唇も動かせん。まあ、幼い時に俺は「サンダーバードGO」と言っていたから、そのまま覚えたのかもしれないが。


 俺のダメ出しなど聞こえるはずもなく、大魔王が思い切り机の上のテレビをたたき割る、するとリビングは高速で下降を開始した。

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