第6話 地下の秘密基地
横たわったままの俺はかろうじて視界の確保は出来ているが、部屋の落下速度が速すぎて床に抑えつけられている。
「ぐぐ、こんなに深くトンネルを掘りやがって。まじで魔力の無駄遣いだぞ!」
俺が口癖のように言う魔力の無駄使い。母のツクヨミは転生時にとんでもない魔力を手に入れてしまった。たぶん願った事はほとんどの事が叶うのではないか。
俺のように転生を望んでいたわけではなく、逆に現代でも普通にDQN的な生き方で違う自分になりたいとか、こんな力があったらいいな、そんなことはまったく思っていなかった。
それが母が大魔王ツクヨミに転生した時に働いたのではないかと思っている。
そう、ネットゲームで欲しいと思うアイテムが中々でない「物欲センサー」が働かないせいで、勇者の俺でも勝てるかどうかわからない強さを持つに至った……まあ、俺は現代でも毎日怒られていたので、母には敵わない実経験があるのかもしれない。
あと姉だが、現代でもわからない存在だった。
兄弟だが話し合う事は少なかったし……ただ、俺も姉も中二病を患っていたので、かなり思った通りの姿に転生できたと思われる。まあ、何も考えなければもっと大きな力を得たかもしれない。大魔王ツクヨミのように。で、姉だが転生しても何を考えているのかはわからない。
ただ、現代で振られた恋人の家の軒先で首を吊ろうとして大騒ぎになって、国道の真ん中に大の字になって「さあーー殺せ。今すぐ私を殺せ!」と見えを切ったり、数々の失恋事件を思い出すと、今でも真っ暗な惚れやすい性格だと推測はできる。
そういえば手軽な呪いとして藁人形に釘を打ち付けたりしてたなあ。
色々と考える程の時間が経ち、やっと部屋ごとエレベータは止まった。
部屋の外は大きな洞窟のようで、不思議な天井のクリスタルから発せられ、影をつくらない光にあふれている。
「お待ちしておりました」
大魔王の母に慇懃無礼に頭を下げる男。顔は十代前半の幼きイケメン。
腰まではあるであろうシルバーグレイの長髪を綺麗に梳かしつけ、後ろで一つに結わえて耳のあたりにはピアスだろうか、貝殻のような飾りをつけている。
服装は吸血鬼のような黒のタキシードを着て、黒い、裏地が真紅のマントを羽織っていた。
エレベータの部屋を出ながら、頭を下げ続けるイケメン君に大魔王は軽くを頷き、獣王アスタルトは「よう!」と片手を挙げた。
「ご苦労様ラシャプ……なんだっけ?」
大魔王の言葉にラシャプと呼ばれた男は顔を上げた。
「ラシャプ・ナイトオブ・テーラーでございます。大魔王ツクヨミ」
ふーーーん、関心のない大魔王の表情にラシャプが言葉を続けた。
「ラシャプで構いません。ツクヨミ」
右手の人差し指をこめかみにあてた大魔王が頷く。
「そうだね、私の事もツクヨミでいいし、あなたもラシャプでいいでしょう。この名前に慣れないといけないしね」
はい、恭順の姿勢崩さずにラシャプは頷いた。
「ところで計画の材料はそこの情けない勇者でいいのですか?」
ラシャプの言葉にちょっと不安そうな表情を見せた母ツクヨミ。
母の代わりに獣王が答える。
「うんむ。たしかに牛乳を少ししか飲んでいないのでキョジャッキー(虚弱体質)だが、これからは俺が毎日十リッターは飲ませるから問題はない」
(腹壊すって)と思いながらも姉から打ち込まれた針の毒でまったく動けない俺。
「うーーん。心配ですが。ツクヨミの子で獣王がこれから育てると言うのであれば……いいでしょう。計画を進めます」
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