第24話 信号(最終話)

 踏み込んだ水のおもてでゆらめく光。

 点滅する赤。  ひらめく銀色。

 嵐は傘をたたんだ。雨は激しく降っている。赤い赤い赤い信号。

 時差式の、信号で、待たなければいけない。傘もちゃんと差して……考える頭の裏で泡立っていく感情。黒く濡れた地面。赤い赤い赤い――。

 奇妙な音が遠くから聞こえてきた。

 傘の柄を握り締めた手は濡れている。

 奇妙な音は嵐のまわりをぐるぐると回った。

 だれかの悲鳴が聞こえて、嵐は濡れそぼった髪を振り切るようにして見返った。同じように振り返った通行人と目が合った。

 覆いが取れたようにそのとき世界が見えた。

 壊れた傘が足もとにころがって。

 信号は再び赤に変わった。

 叫び尽くした喉は、酷く痛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤い線 深川 夕陽 @lux_aeterna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ