第23話 崩壊
――ここは、
「どこ」だろう。
わたし、とは、だれだろう。
キイと音をたてて閉じていく電話ボックスの扉に、走る影。あいまいな崩れた輪郭をそこに見捨てて、嵐は赤い線の待つ部屋への道をまたたどりはじめた。
世界が急激に遠ざかっていく。世界との距離が一気に引き離されて行く。わたしだれで、なにをしてた? わたしってどんなで、どうやって生きてた? すべてが遠ざかっていく。その奥で硬くなった心が冷たい目で言う。やっぱり、だれにもなにも言うのではなかったのだ。甘えようなんてお前が悪い。終わっていく。信頼が、ついえていく。すこしくらい怖い目にあったからって、だれかに頼ろうなんて馬鹿げてる。すこしくらい。すこしくらいのことで。
自分の体を前へおくることがとてもおっくうだった。体が重く、なによりも胸が重かった。声に出すことも出来なかった言葉が、言葉を与えることさえ出来なかった感情が、もう、深く深い場所で、何にも変えられないかたまりとなって、ころがっていた。
何もかもがバラバラに砕けて壊れた。
嵐の世界は、つなぎ目さえわからないくらいに。
そしてさまよい歩く無意味な歩行のうちで、無意味な問いが連なる。
わたしは「だれ」だろう。
あまりにもありふれた言葉が流れていくので、おかしくなって、ふ、と笑った。そうしたら、次々とつきあげてきて止まらなくなった。乾いた心と冷たい体からは涙も出てきはしなかった。ふ、ふ、ふ、ふ。腹の底から息をしぼりきって苦しくて息が詰まるのに、それでもまだ吐きたかった。
それなのに、なにも。
無かった。
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