第21話 反復

 一定の間隔を置いて繰り返す音。重なる鋭いアラーム音と、光の点滅。吐き出された薄っぺらのカード。

 その奥でまだ響いている反復音。繰り返し、繰り返し、繰り返し。


「自分から会いに行っておいてさ――」

 ハア、と短く切られた息が受話器の向こうで吐かれる。その機械の中で再現された響きに心が震える。ちがう、と、そうだ、が同時に立ち現れて喉が詰まり何も言えなくなる。

 この人は何も少しもわかっていない。なにひとつ伝わっていない。何も伝わっていないのにもう完結している。あきれている。何をわかったつもりで何にあきれることができるのだろう。この人は何を言っているのだろう。

「好きでもないのにそういうことするなんて」

 何の次元で話しているんだろう。どこへ行ってしまったのだろう、私はどこにいるのだろう。

 わかってるよわかってるよ私が悪いのはもうわかってるから――もうわかってるから――。

「だから?」

 ……だから、……一人でどうにかするかツーツーツーツーツーツーら、もう二度と誰かに頼ろうなんて思わないから、人にすがろうなんてことを考えないからもう迷惑かけないからもう何も何も何も――。

 反復。

 赤い点滅。

 吐き出されたカード。

 重いゆびさき。

 怖くって。

 怖くってね。

 あのね、前に言った、三ヶ月くらい前のね。

 学校から帰る途中でね。

 早退して来てね。

 怖くてね。

 なんかおかしくってね。

 おかしいんだ。

 一度会える?

 会える?

 うん。

 いいよ、来月でいい。

 いつでもかまわない。

「――なにが、怖いんだかわからないんだけど?」

 リカイできないよ、自分から会いに行っておいてさ。


 ぱち、ぱち。

 赤の点滅が目に残る、残像。カードを引き抜いて。

 ボックスのドアを開ける。

 冷たい空気。

 ここは、――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る