第20話 雪

 嵐は真っ白な雪原を見た。

 どこまでもどこまでも白く、まぶしい。

 昨日までのくすんだ灰色は一遍に塗りかえられていた。

 誰の足跡もまだない白のまぶしさに心が浮き立って、振り返り笑顔をおくると駆け出した。

 まっしろ、きれーい。

 あふれる水の感触とともに、浮かびあがっていく意識。まぶたのむこうが輝いている、光の予感がする。少しだけ力を込めたまぶたから、水がこぼれ落ちていく。唇を小さく開いて、細い細いため息を遠くおしだして、嵐は目をひらいた。

 朝の光が薄く満ちている。冬特有の空気の冷たさに凍った体の重みを感じる。鼓動が打っている。血をおくり、活動に向けて励みはじめている。

 一瞬、白い景色が意識にかかってすぐまた消えていった。夢を見ていたようだとまだ働かない頭でぼんやり思いはせる気配のさきに、誰かの存在を感じた。

「おとうさん」

 つぶやいた声はからりと所在無く回って消えた。幼い思い出しか、嵐のもとに残されなかった、その存在感はとおくはかなく、小さな火のように。

 たどったその思いに似た、夢であったと、嵐は思い、静かに身を起こした。

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