第14話 箱

 音にならない語りが心を過ぎていく。

 箱の中に丸まって結ばれて固まった小さな子が居る。

 下手に触れば殺してしまう。

 私が触れれば殺してしまう。

 私を殺したあの人の歪みが。

 私の奥にも眠っているから。

 私あなたを殺してしまう。

 きっとあなたを殺してしまう。


 赤ん坊の指のように、きつくきつく握り締められた小さな手。

 傷だらけで、まだ血を流している。

 体中から、まだ血を流している。


 固く結ばれた沈黙が語る。

 痛かった。

 痛かった。

 痛かった。


「私あなたを見ていなかった」


 沈黙。


 息苦しさが霧のように意識をさえぎる。

 画でもなく音でもなく語り掛ける存在は、容易にかき消され行く。



 痛かった。



 覆い隠されてしまった存在の声を、せめて覚えていようと願うが、それは何も残さず摩滅する。

 いとも簡単に。すみやかに。


 そして記憶は嘘を付く。







 私あなたを見なかった。



 けれど、いくら記憶が嘘をついても、嵐が見たことは、失われなかった。

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