第12話 シン

 大粒の雨粒。

 ぱた、ぱた、と腕に当たり、まぶたに当たり、跳ね返り。

 曇っていても青い時間は来るのだとぼんやり思う。

 青白く光り出す腕や指先。

 かえらなきゃ。

 雨粒の一つが頭に当たる。

 音と感触が静かに静かに心に落ちていく。

 心はしんとしている。

 図鑑で見た宇宙の写真のように。

 深々と。

 降り積もり。

 共有できない時間。

 誰とも。

 それがただ降り積もり、降り積もり……。

 でも、もう。

 悲しいような、心で嵐は思う。

 もう。

 ひとりでもいけるように。

 このかなしみ。

 降り積もる思いを。

 抱えても歩けるように。

「ならなくちゃいけない」

 青白い空は、果てなく曇っている。

 そこには何も見えない。

 何も見えない。

 穏やかな無があることを、嵐は知った。

 消え失せて夜と同化してしまわないように。

 嵐はきびすを返した。

 雨粒、ぱた、ぱた。

 由比の涙。

 シャワーの水滴。

 血流。

 流された血。

 流れていった、嵐の感情。

 降り積もれ。

 雨。

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