第10話 虚像

 どろどろしたいしき

 いしき

 いしき

 いしき

 サワラレル

 信号

 ア

 意味を成さずに消えていく

 手をひかれるままに

 歩く

 つまみで調整する照明のように

 暗くなる意識

 沈み見えなくなる

 衝撃

 自分が見える

 もうひとりの自分

 うううと苦しみが

 上ってくる

 誰かが勝手な

 動きをしている

 苦痛に支配された

 思考と体

 運ばれる

 どこかへ

 どこ

 感触だけ生きている

 音が

 飛び込む

 コンマ一秒もない覚醒。

 息を継ぐ暇もなく次の波に飲み込まれて落ちていく。

 すべての事を知覚しながら心は眠っている。

 ただ行われるすべてを耳と目と触覚が脳に刻みつづける。

 淡々と、淡々と。

 だからいくら思い出そうとしても、それに付随する感情は蘇ることはない。

 そのとき心は眠っていたのだから。

 そして今心は目を覚ましてその残酷な記録を見ている。

 主観と傍観の混在は嵐を混乱させる。

 それはだれだ――。

 これは私だろうか。

 バラバラに切り離されていく実感と心と身体。

 それを前に嵐は途方に暮れる。

 どうやって繋ぎ合わせていいのかてんで分からない。

 破れ目はもうきれいに磨かれてしまった。

 もともとがどんなだったかは覚えていても、どうしたらそこへ持っていけるのかが嵐には分からない。

 私わわたしはたしはわ――。

『忘れなさい』

 浮かび上がる誰かの言葉は嵐が求めたのか勝手に来たのか。

 怖い怖いかったこわかった。

『ぜんぶ君が作ってるだけだ』

 記録を見た心が作り出した虚像?

『元気じゃないか。なにも心配は要らないよ』

 鈍い痛みが胸に走る。

 ひりひりとした感覚が、鼓動を早め、息を詰まらせる。

 黙り込んで、口をふさいで、立ち尽くして。


 嵐はバラバラになった自分の体を見ていた。


 手を出すことも出来ずにただ見ていた。

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