ほの暗い彼女は魔獣のごとく

 野中恵那のなかえなという子は、だいぶ歪んだ未来の見える子だった。

 この時点だと全くそんな素振りを見せていなかったけど、彼女の抱える暗黒面も、どうしたってあたしには透けて見えていたよ。


 痛い目を引き寄せる精神性、っていうのかな。可哀想だから助けてほしいです、っていうのを素振りで見せてしまうっていうのは、自覚がなくても怖いことだよね。


 まあ女子からは嫌われると思う。だから彼女はビクビクとしつつも部活での日々を過ごしていて――そんな仕草でさえ、自らの闇を熟成させていくことに、あたし以外の誰もが気づいていなかった。


 アサミンはこの子とは仲が良かったから、それでいくぶんか中和されてたのかな。さすがほんの少しだけ、あたしの欠片を受け入れてくれただけのことはある――無自覚にでも状況を整理していた、その姿勢にはハナマルをあげよう。


 けれども恵那ちゃんの因業は、そんなものではとても収まらないものだった。


 当たり前だ。それでどうにかなるようだったら、中学のときのあたしはもっと救われていたし、世界はもっとマシになっていただろう。

 だからあたしは、彼女を放置するしかなかった。

 網戸あじと先輩の言うとおりだ。本人が自覚して直そうとしない限り、どうにもならない。いくら手を尽くしたところで、その努力は底の抜けた穴があるがごとく、こぼれていってしまう。

 どんなに手をかけていても、受け皿がないのなら意味がない。昔のあたしと同じ――いや、ひょっとしたらもっとタチが悪いか。そんな呪いに、彼女はかかっている。


 それを解く方法を、未だにあたしは知らない。


 そして恵那ちゃんの恐ろしいところは、そんな呪いすら『食べて』しまっているところだった。あたしは分離して拒絶したけど、彼女はもう自分の一部にしてしまっている。王子様のキスで治るなら、それでハッピーエンドだね――期待したいところだ。


 皮肉な言い回しになったのは、それだけあたしがあの子を警戒してるからだよ。

 この先、彼女がどんな騒動を起こすかは分からないけれど――そしてそこにあたしはいないのだろうけど、アサミンが上手く事態を制御してくれることを願うよ。


 前置きが長くなったけど、それはこの先のことを言いづらかったからだ。

 ここまでの情報を考えて、こんな子とあのクソ真面目な部長が鉢合わせたらどうなると思う?


「……あかるい」


 そんな生易しいもんじゃないと、あたしは内心で冷や汗をかいていた。

 曲の解釈としてはそれでいい。ただ、そこに至る過程が違い過ぎる――だったら、それを許せないあの同い年とは。

 決まってるじゃないか。大戦争の勃発ぼっぱつだ。

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