臆病な魔女は空を駆ける
それは説明ではない
「ふーん。優、そんなこと言ってたんだ」
弟子を通じてそれを聞いたあたしは、半ば呆れた気分でそう言っていた。
いやいやいや。後輩に対して『そんな甘いことで金賞を取れるほど甘くない』って正面切ってはっきり言うとかさ……それ、どんな脅迫だよ。おまえの意見なんて聞かないって言ってるようなもんじゃん。
部員たちに対して自分の考えを説明しろっていうのは、そういうことじゃないんだよ。何してんだあの馬鹿女。
部長だからって誰もが言うこときくと思ってんじゃねーぞ。ため息をついてそう思う。
ちなみにそんな優のセリフをまともに聞いた馬鹿弟子は、案の定曇った顔をしている。学年があがって後輩ができて、少しはまともなツラをするようになってきたっていうのに、何してくれてんだあの女……。
金賞を取るために個人のレベルアップが必要っていうのは
けれども、そこに至るまでの過程が違い過ぎる。そうなるまでにどれほどの犠牲が出るのか、あいつ考えてるのか?
考えてないわけじゃないんだろうけど、あいつ全部自分基準で物事を考えてるから、みんなそのしごきに耐えられるって思いこんでるんだろうなあ。さすが
ああ、くそ。頭が働かない。目の前の事態に拒否反応を起こしているのか、これまでやってこなかったコミュニケーションなんてものをやってるせいか、脳みそが疲れて悲鳴をあげているよ。
缶コーヒーを毎日飲んで、ようやく正気を保っていられるレベルさ。ぐいっと一口、気つけに飲んで――あたしは、これからどうすべきかを考え始める。
一番みんなが笑って迎えられるエンディングは何か。
そしてそこにつなげるために、あたしはどうしたらいいのか――
……基本的に、あたしが関わるとロクなことにならないんだけど。
だから表立って活動するのは、全部この馬鹿弟子に任せることにする。ちょうどいい機会でもある、この子が自身を取り戻すには、これしかないのだろう。
自分の力で物事を解決して、あらゆる流れを正常化する。
うーん、なんて自分にブーメランなセリフ。
自力でなんとかできないからあたしはこの子を利用しようってうのに。いや、広義で言えばそれも自力のひとつなのかもしれないけどさ。
三年生の派閥争いみたいなものにこの子を巻き込むのは、やっぱりちょっと気が引けるなあ。
面倒くさいことなんかやらず、あたしはただ単に幸せな時間を楽しみたい。
引きこもり魔女のそれだけのささやかな願いは、どうやら世間では通じないらしい。知ってるよ。知ってるから今まで外に出てこなかったんじゃん。
うんざりするほどコンクールの仕組みについては叩き込まれてる。中学の時に――そして、あたし自身が感じてきたことも、心に浮かんでくる。
このままじゃダメだよ。
……うん。全体的に、行動を起こさねばならないとあたしの勘が告げている。
目の前で不安げな顔つきをしている馬鹿弟子も、そして自分も。
どうにかしなければならないことは、過去のあたし自身が予測していた。
セーブしていなかった頃の
闇の奥底に置いてきてしまった魂が、そうしろと告げているなら――あたしはそれに従うしかない、か。
慕ってくれる子なんかできて、弟子を取り巻く環境も、大変な問題に隠れてはいるけど。
初々しさにあふれて、それはそれで楽しそうだった。
あのときとは状況が違うけど、だからこそ他にやりようはある。
「大丈夫だいじょーぶ。きっと大丈夫だよ」
だったら、何が正しいのか、何を貫くのか――なんて。
その言葉をそっくりそのまま返してやろうじゃないか、優。
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