あてにならない未来予報
目の前の彼女と、記憶の中の彼女の姿があまりにかけ離れていて、あたしはそっと頭を押さえた。
「どうしたの? 広美」
ちょっと待って、あたしに記憶と現実の区別を付けさせてくれ。
この混乱の原因である
まやかのしゃべり方は、一年生当時の舌っ足らずな口調から、
身にまとう雰囲気も、お姫様というより即位した女王だ。
改めて振り返ってみると、一番外面的に大化けしたのはこいつだな……。
あのバカ弟子は、お姫様時代のまやかを見てみたかったとか、そんな呑気なことを言ってたけど、実際にやったら拒絶反応で吐くんじゃないか?
そう思うくらいの変貌っぷりだ。彼女がこうなる過程にあった出来事は、まあもう少し後で話すけどさ――それにしたって、人ってこうも変わるもんかね?
そんなことを考えながら、あたしはまやかに手を振る。
「なんでもない。ちょっと昔の変なことを、思い出しただけ」
「そう。まあ卒業式が終わってすぐだものね。今まであったことを思い出したりもするわ」
「うんソウダヨネ。あたしたち本当に、今まで色々あったもんネー」
その色々あったの筆頭に言われてしまっては、しゃべり方が棒読みになるのも致し方なし。
……まあ、そのおかげで今あたしたちはこうして、第一印象の良し悪しに関わらず、一緒にいることができているわけなんだけど。
そんな風に考え、周囲を見回す。
そして、やはり静かに紅茶を飲む、
あの時あんなだった連中と、こうしている未来なんて、本当あのときはカケラも見えなかったなあ。
まああの時期は、あたし自身が今より尖がってたのもあると思うけど……。
ああ、それとさっきから言ってるこの『未来が見える』っていうのは、別にそんな怪しい話とかじゃないんだ。
超能力を持っているとか、そういうんじゃなくて――なんていうかな。
あたしは、限定的に『人の未来を演算できる』んだよ。
よくいるでしょ、振る舞いを見て『ああこいつ、このままだとロクな目に合わないな』と思うヤツ。
ああいうのを、あたしはもっと具体的に計算できたりする。
事実、優は後輩から猛反発をされたし、まやかは一時期、自分が何を求めているのかも分からなくなった。
人の言動から、そいつの未来を推し量っていく。
だからどっちかっていうと、これは『予知』というより『予測』に近いかね。
まあ、天気予報みたいなもんだと思ってくれればいいや。
あたしが演算って言ってるのはそういうことだ。そいつの言動が変われば、自ずと未来も変わる。
雲の動きで、明日が晴れか雨かが変わるように。
こいつらが、あたしの予想もつかない場所に至ったように。
そういうシステムだから、演算対象のデータが多ければ多いほど『予測』の精度は増していく。
面倒くさいにも関わらず、あたしがあの不肖の弟子と、その周辺をウロウロしていたのはそういうことだよ。
と――こう聞くと便利そうに感じるこの『未来予測』だけど。
先が分かるっていったって、そんなに使えるもんじゃない。
ご多分にもれず、自分自身の未来は見えないし。
それに、もし仮に余計な親切心を発揮して「このままだとあなたはこんな目にあいますよ」なんて言っても、普通の人間は行動を改めないじゃん?
だから持っていたって、実はそんなに役には立たない。
かえって気味悪がられるか、何もしなければ「どうして何も言わなかった」って嫌われるだけさ。
あと、もう一つこの使えない能力には、どうしようもない問題点があるんだけど――
これって完全に制御不可能の、自動演算仕様なんだよねえ。
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