答え合わせ。

 犯行は決まって公演前、発見者が毎回異なる。殺害手口が同じ。


「このように共通点の多い事件ではありますが立て続けに発生したとなれば意図された形跡が伺えます。」


「一体誰が?」「今から説明します」


言ってしまえばそれ程入り組んだ謎ではない。しかし根が深く話しにくいので、先に犯人の名を呼ぶ事にした。


「農夫役の男性、並びに多くの出演者を殺めた犯人は..貴方です。」「え?」


すっとキノコ姫役の女優を指差す


「エイリン..君ってやつは」


「それと貴方です。」「何?」

指をスライドし王子役を指差す


「二人とも、もしかして..共犯⁉︎」


「それから貴方もですね。」「嘘!」

そのまま更にスライドし犬役を差す。


「私と」「俺と」「僕ですか!?」


「そうです、貴方たちは殺しを三人でローテーションしていたのです。」

毎回殺害者が異なる為発見者が違う、方法を統一化すれば複数が殺しているとな思われ難くなる。


「...とっ忘れてました、監督。

貴方も共犯者ですよね?」


「……私まで巻き込むと言うのか。」


証拠隠滅のローテーション殺人、内輪の組織内だから出来た手口でもある。探偵は珍しく謎の仕組みを話す前に、犯人の動機について語り始めた。


「実はこの、きのこ姫と26人の執事という演劇は曰く付きの作品です。携わったものが何らかの死やら怪我やらに見舞われ酷い目に遭う。」


「あ、それ聞いた!」「ですよね?」

必ずと言っていい程犠牲者が出るも作品が続くのは脚本の崇高さと演者の表現力、廃れる事なく受け継がれ今や五代目に突入している。


「しかし今回は誰も死ななかった。」


「めちゃめちゃ死んでるぞ?」


「初めの話でしょ、冷めるよホント」

一公演目が始まる直前まで皆健全とし死どころか怪我の気配すら無かった。


「そこで貴方がたは考えた。

誰かを殺そう、そしたらもっと良い演技ができるかもしれない」


「嘘でしょ。」「執着しているな」

造作の深い監督は執拗にこだわり続け不足していたポイントに気が付いた。


「死者を出し、脚本を徐々に書き換える事で変化を付けていったのです」

予期せぬ不運の連続を、いつしか向上する為に必要な登竜門だと思うようになった。死者がいなければならない、死者を出す事で高みに登るのだと。


「その結果脚本はどうなったか

どうでしたバイラルさん、演劇を鑑賞したご感想としては?」


「...うん、面白かったよ。けど、何か足りない気がした。人数とか云々じゃなくてこう..上手く言えないけど、距離みたいなものを、感じたかな?」


「...わかりにくいですね。」


「仕方ないでしょ、私だって良くわかんないのよ。思ったままを言ったの」


「そうです」「え?」


「見た人の感想は〝よくわからない〟こういった漠然としたものばかり。つまり何も向上はしていないのです」

死者を出したところで演技の上達は見られない。精神論では不可能だという確証が生まれてしまった。


「ちょっと待ってくれ、お前はさっきから俺たちを犯人だと決めつけているがどうやって殺すんだ?」


「そうよ、私たちは直前になって控え室に入ったのよ。そんな短時間で殺す方法なんてあるのかしら?」


「..都合良く乗ってくれましたね。ではご説明します。多くの演者を死に至らしめた方法とは、呪術です。」


「呪術!?」


「まさかの黒魔術じゃん、怖っ!」


「お前反応若いな、年も若いが。」


攻撃呪文として杖を用いた飛び道具やエレメントから報酬するファイヤ、アクアといった魔術が多く普及する以前に使用されていた旧魔術。魔力をこめた被写体に強く外傷をイメージすると本体の身体に直接伝達するという手間と労力の掛かる非効率を凝縮したような若者の嫌う代物である。


「役者である皆様のイメージは最たるものです。扱い難い呪術もお手の物」


 魔術を扱う度量はなにも魔力だけでは無い。テクニカルに小技を織り交ぜ翻弄するトリックスターもいれば感覚やタイミングでピンポイントでヒットさせる精密機械のような魔術師もいる。


「人間の演技や感性といったものはAI技術では踏襲不可能だと言われています。勉学や単純作業は出来ても本や映画は作れないという訳です。」

首筋に小さな穴を開けるイメージを浮かべたのは、殺しそのものに意味を持たせるため。殺人すらも演出する鑑のような仕事ぶりはかえって観客の目を曇らせた。所詮は傲りの腕前だ。


「..ふざけるなよ?

急遽でも書き換えた脚本は渾身の出来栄えだ、そのときの完璧だ。言いたくは無いが正直、理解できない観客がどうかしてるんじゃないか?」


「ちょっと、何よそれ!

私の理解力が無いって言うの?」


「確かにバイラルさんは理解力が良いとは言えません。」


「おいこら」「言われ放題だな。」


「ですがそういう方にすら理解させる物語を綴るのが腕というものです。それが出来ないのであれば、乏しいのは貴方の力ではないでしょうか?」


「そうだそうだー!」


「お前、一度貶されたんだぞ?」


理解を押し付けるのは愚の骨頂、伝達させるのは作り手の役割だ。アンチはその上で発生する悪しき支持者。


「まさか内側に敵がいたとは..」


「同じ演者なのになんでなの..」


「次に殺されるのは僕だったかも..」


「主役がそんなに偉いのかよ..」


「年取ると肉食べられないらしいね」


「貴方達が犯人ですよね?」


「仲間殺しか..。」


「五人目ホントに劇団員?」

偏った思想が生んだ悲劇の事件。犠牲は糧になどなる事無く、ただ凄惨な獣の牙に噛みちぎられただけだ。


「フフフフフ..ハハハハハッ!」


「笑った。」「そういうタイプね」

冷静であった振る舞いからは売って代わり、狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「それは演技ですか?」


「..演技な事あるか、俺は監督だぞ?

まぁ今までの振る舞いをとするなら演技をし続けてたかもしれないな!」


「もうめんどくさくなっちまった。」


「取り繕わなくていいわよねー」


「..僕は、別にこのままだけど。」

反省の色なし、当然だ。劇団の士気を上げる為だけに団員を供物と捧げたのだ。団結力が聞いて呆れる。


「だから嫌いなんですよ、信頼や絆とのたまう薄情な連中は。」


「そんな事知るかよ!」


「お前らも殺してやるよ。この部屋にいる時点で領域だからよ」


「さぁ〜かけるわよ〜黒魔術..!」


「黒魔術は領域と決めた場所に被写体を置けば遠隔でも呪術を掛けられるんだ、ってなんで僕が説明してんの?」


被写体と術者の距離が密接なら密接であるほど術の効力は大きい。厄介なのが、術者は黒魔術による直接的な影響を受けないという事。仮に範囲的なイメージを被写体に施しても被害を被る事はないのだ。


「探偵さんよ、お前に仕事を依頼した意味がわかるか?

いいアクセントになると思ったからだ事件を解決するヒーロー、結構サマになってるだろ、なぁ!?」 


「駄作ですね。」「何?」


「僕は慈善事業で事件を負いません、ただ謎解きを趣味で行いたいだけです。その点正義の人間はいかがです?」


「俺に聞くな!」


あくまでも探偵、業者のようなものだ人間というよりは、専門の管轄のような扱いをされてしまう。


「いいから黙れ、じゃまなんだよ」


「今すぐ呪術を掛けてやるわ!」


「殆どゼロ距離だから逃げ場無いよ」

開き直りの愚者達が呪文の準備を始める。犠牲者は遂に演者を飛び出し他の界隈まで広まった。


「どうするんだ探偵?」


「心配はいりません。これだけの事をきておいて、彼らが無事で済むとおもいますか?」

目立ち過ぎれば反感を食らう。

しかし『彼彼女ら』には、そんな理屈は無い


「おい、あまり調子に乗るなよ?」


「あなた達が目立つのは壇上だけよ」


「一つの事に長けていると、他の場所でも優位に立ちたがるんだよな」


「これ以上好きにはさせん」


「邪魔はさせないから」

26人分の演じ分けをしてきた5名の戦士が、遂に自分自身に身体を戻す。


「反発のつもりか脇役共!」


「生意気やんじゃねぇよモブがよ!」


「主演をはれないのは力不足よ?」


「名脇役にもなれないけどね。」

一斉に呪術を掛ける。しかし甘い、脇役が魔法を使えないといつ言ったのか


「ベルファイア!」「がっ..!」


「シイタ犬!?

おのれ、何故魔術を使える!」


「そのセリフ、悪役っぽいな。」


「そっちの方が向いてるのかもね!」

執事ハニーシロップの水攻撃はヒロインのキノコ姫の化粧を落とし仮面を剥いだ。悪人ヅラが周囲に晒される。


「何すんのよ小娘ェ!」


「王子は投獄するべきだ、罪を償って貰わないとな。」

木の幹が床から幾つも生え、牢獄状に王子を囲う。その内側に流すように電撃を与え刑罰を与える。


「ひっ..!」「流さないよ?」

逃げ腰で怯える監督を追い詰める五人目の戦士は表情一つ変えず元凶を追い詰める。


「呪術が好きなんだってねぇ?」


「ひっ、やめて!お願い!」


「喋るなよ。」「いっ...あっ..!」

喉を強く縛られ息を拘束される。気絶せず、死にもしない。激痛を常に帯び続ける加減のイメージを与えた。


「さぁ刑事さん、この悪人達を連れていって下さい。」


「..ああ、わかった。散々だったな、これで公演は取り止めか?」


「いえ、続けます。作品に罪はありませんから。わかりやすく改変はするかもしれませんけどね」


「確かに。」「何がだ?」


「26人分の執事が出て来るシーンはいつも分かりやすくて面白かった。」


「そうですか、有難う御座います」

己らにかまけ改変をせず残した既存の執事のシーンは自然と笑みが溢れ純粋に楽しめた。唯一の偽りない表現をしていたからだろう。


「この後続く公演、そして是非、次回作のちくわ御前でお会いしましょう」


「ちくわ御前!?」

友情出演で執事アトラスが密かに登場するが、果たして客が気付くかどうか


「謎が無ければ興味はありません」


「探偵、今回は珍しく残ってるな。」


「あらチクワ御前は推理モノよ?」


「推理モノ!?」

益々興味をそそられる新作舞台、きのこに次ぐベストセラーになりうるか『チクワ御前』乞うご期待。


穴の向こうに真実がある。

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