番外編 私の父親

 周りの子からは

『子どもっぽくない』とよく言われる

それに気付ける時点で周りが子どもでは無いのではないかとも思う。


私はまだ6才だけど、こんな事を思っていたりする。やっぱり生意気に見えるのだろうか、自分ではわからない。


不自由は特に無く、充実した毎日。

だけど一つだけガンがある。


「ただいま、帰ったぞ〜!」


「あらおかえりサキ、お父さん帰ってきたわよー?」


「お父さんお帰り!」


「お!

ただいまサキ、会いたかったぞ」

これだ。これが唯一の欠点だ。

ウチの父親、コイツは何もわからない


「お父さん遊ぼー?」


「どうした暇なのか、大変だったな」

そういう事じゃない。遊べよ!


「そうだな、なら明日俺は休みだ。だからお前に良い友達を探してやるぞ」

そういう事じゃない、遊べよ!!


「良かったわね、サキ。」

本気ですか母親おい、なんでだオイ。


「うん、楽しみにしてるー」

だけど気を遣う私!

一歩踏み出す勇気の無い私!!


「お父さん、あのね..!」


「少し寝ようと思う。立て込んでて疲れてな、風呂入れるかな?」


疲労は鼓膜を覆うイヤホンになるのか

私の声は届かない。こういうときにいつも思う。明るい奴はいいなって。別に明るくなりたい訳じゃない、だけど

そういう振る舞いの人たちは簡単に思うことがまかり通る。いとも簡単に。


「私も寝よ..。」


「おやすみサキちゃん」「おやすみ」


お父さんはいつも危険な場所で戦ってるとお母さんが言ってた。それはなんとなくわかるけど、だとしてもわかってない。


「刑事だって言えばいいのに..」


警察は警察同士の結婚が多いって本に書いてあったけど、ウチは違うらしい事件現場に偶々居合わせた母親と電撃的な出会いだったらしい。そんな熱い両親を見てるからか私は、随分と冷めた性分で生まれ育った。


明くる日、お父さんはおかしな本を図書館で借りてきた。凄く喜んでたっけ

『これで遊び相手ができたぞ』って。

カブトムシの本?

イカしたハイセンスしてるわ。ううん〝イカれた〟じゃない、イカしたよ。


「ありがとう!」「おう!」

私はそれを快く受け取った。気を遣っている訳じゃない、それもあるけどでもそれよりも、子どもってこんな感じかなって思うだけ。


「お父さん、私って可愛いかな?」


「当たり前だろ、最高に可愛いぞ。」

ね、大人はこう言うに決まってるから自分で確かめるしかない。子どもを咎めるのは間違ってるしおかしい事だ、こういうものが出回っててそれが正しいとされてるから皆それをやってる。

それくらいの事はわかるようになってきた。思ったより簡単な世界よ。


「お父さんお母さん、好きよ。」

この言葉に嘘は無い。だけど例えば二人がいなくなったとき、私はどうするだろう。悲しい感情はあると思うけど泣くかどうかはわからない。


だって何の意味があるの?


涙を流して何かが起こるのかな?


笑っているけど本当に面白いのかな?


顔の筋肉を柔らかくして誰かが喜んでくれるのは素敵なことだけど、それ以外で楽しいと感じられないのならその程度の事なんじゃないのかな。


「可愛くないよ、私は。」

ぜったい子どもは向いてない、私に。だけどこのまま大きくなって大人になったとき、それが向いているかもわからない。だから多分、お父さんやお母さんの生き方が正しい。こんな嫌な話をしたらきっとお父さんやお母さんは『お前は間違ってなんていない』って言うからホントの事はわからない。


あ、そうか。


「その為にみんなワガママ言うんだ」

間違ってるっておもわれたいから、おかしな子だとわかってほしいから。


「私はおかしくもなれないんだ」

犬でも飼っていれば良かった。大きな声で吠えてくれたら、少しは子どもみたいに泣けたかも。猫のほうが好きだけど、きっと余り吠えないから。


「アトラスオオカブト..かっこいい」

今日私はワガママを言ってみようと思う。でもどうしよう、不自由が無い。


「今日の晩ごはんは...」

ダメだ、カレーだ。文句のつけようが無い。抜け目ない完璧メニューだもん


「明日の予定は...?」

あぁ忘れてた。テーマパーク行くんだ何、凄い楽しげじゃない。でも苦手なんだよなぁ、楽しまないといけない感じが。だけどおかしいもんね


『楽しめないから行かない』って。余りにも不自然なワガママだよねそれ。


結構難しいなワガママって。

皆どうやってやってるんだろ?

初めはこのカブトムシの本がいいヒントになりそうだと思ったけど、これはこれで結構面白い本なんだよなぁ。


「アトラスオオカブト..かっこいい」

これで本当に私がカブトムシと仲良くなったらどうするつもりだろ。普通に喜ぶのか、その為に借りてきたんだもんね。やっぱりわかってない。


「..そうか、それを言えばいいんだ」


お父さんの部屋の扉、大きい。

「こんなに大きかったっけ?

昨日も部屋入ったけど、なんか怖い」


ノックしようか、いや普通に開ける?お父さんだしそんなに緊張しなくても


「ええーいもういいや!」


「うおっ、なんだサキ!?」

スタートダッシュは成功かな、ちょっと荒々しかったけどまぁ仕方ない。


「あの..さ、お父さん。」「何だ?」

ほら言うんだ、いってやれサキ!


「私はお父さんと遊びたいのっ!」

わかったかオヤジ、いってやったぞ。


「..俺と?

だって明日一緒に出掛けるだろ」

わかってなかった、結局か。


「そういう事じゃなくて、テーマパークとか本とか、違う。お父さんと一緒に何かしたいの!」


「俺と一緒に何かしたいって...」

やっとわかってくれた、時間かかった


「それっと俺と、友だちになりたいってことなのか?」


「………」ダメだコイツ。話にならん

テーマパークがお似合いね、私は。


「お父さん。」「...なんだ?」


「明日の遊園地、いっぱいたのもうね

私すっごく楽しみにしてるから!」


「..おお、俺も楽しみにしてるぞ!」

やっぱり子ども向いてない。


「あーはやく大人になりたいなー」

流行りのゲームでも買っておけば良かった。それなら少しは楽しみ方わかったかもしれないのに。猫飼おうかな?


でも少しだけ、面白いって感覚を知ったかも。本当に些細な事だけど。


「アトラスオオカブト..かっこいい」

遊んでみようかな、今度。なんてね。


「図書館に返してこよ、明日早いし」

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