12話 魔力解放宣言

 魔術を応用出来ないのは力がないからだ。大きな事柄に首を突っ込まないのは派手目が無く興味を持てないから、小さな事件や謎解きをするのは、目立たず関心があり、誰にも干渉されないからに他ならない。


「で、着いたのが刑務所?

なんでこんなところに来るの。」


「着いてきたのは貴方です、こんなところまで同行したいですかね?」


「..ごめん、なんか不安だったのよ」


「そうですか。特に構いませんが」

基本的に人には会いたがらない彼が積極的に話を聞きに行くとするならば分野の専門家、もしくは知識欲掻き立てられる科学者辺りか。


「面会時間10分です。」


「...何しに来た?」


「言わずもがな、用があって来ましたお聞きしたい事がありまして。」


「げっ、嘘!」


「久し振りですねバイラル先生、私になど名を呼ばれたくはないか。」


「当然ですよ。ロリコンサイエンティストですからね、キュレフさんは」


「ハッキリ言い過ぎ!」

「それでも君は名を呼んでくれるのか、有り難いね。」


現場の偽造、死者の偽造をして自らの感情を殺そうとした元科学者は、今や見る影も無く老いた囚人だ。


「で、私に用とは?」


「..実はひょんな事から厄介事に巻き込まれましてね、貴方に知識を授かりたいと思いまして。」


「.....女性は、16歳がピークだ。」


「何言ってんのよ!」


「もどかしいあの時期が一番だろう。違うのか、そうだろ探偵さん?」


「開き直るなエロジジイ!」

 察するベクトルを大幅に間違え、独自の見解を述べてしまった。当然探偵の好みは違う、もっと難解なタイプだ。


「貴方がそこにいる間、世界は変動を遂げていましてね。といっても僕も知ったのはつい最近の事なのですが、それについての助言を頂きたい。」


「ほう?」

探偵はジョー・マドンに聞かされた全容を丁寧にキュレフに繰り返した。キュレフは偶に頷き、最後まで何も話さず静かに耳を傾けた。


「世界と国を統一化、思ったより早かったな。」


「わかってたの?

こうなる事がずっと。」


「予想はしていた、魔法が大きく世界に拡がればそう考える者もいるだろうと。極端な例だと思っていたが、知らぬ間にポピュラーな議題として上がるようになっているとは。」


「どうすれば止められますか?」


「そんな気が君にあるのか。

私の引き起こした小さな事件を楽しげに解決していた君が、本当にそれを防ぎたいと?」


「思っていませんよ、心からは。

しかし世界が一緒くたにされてしまっては貴方のような繊細な悲劇も起こらなくなってしまう。それを適度に防ぎたいという感覚は果たしておかしな感性と認識されますかね?」


「....はっはっはっは!」「笑った。」

科学者のツボはまるで分からない、変わり者といわれる由縁が性質よりも喜怒哀楽や表れるタイミングにある。


「面白い、君は私達のような乏しい感性を好んで拾ってくれるという訳か」


「別に、悲劇を望んでいる訳ではありませんよ。ただクオリティとして、控えめな表現を好むだけです。」


「そうか、そうだな。控えめな連中で目立つ者を超越するには、有利性と兵力が要る。」

「有利性と兵力、ですか。」


「四つのエレメントの配置を確認し、そこに有利になるように『火<水』といった対抗作を敷く必要性がある。」


「そうですか、対抗作を..。」


「面会時間終了です」


「あ、終わり?」

本題に入りこれからというときに時間は待ったを許してはくれない。科学者の顔に戻った彼は、再び暗い牢の中へ悪人として戻される。


「案ずるな、出来ん事は無い。

君は言うほど地味な男でも無いしな」


再び顔を拝ませる為の伏線か、心から突発的に溢れた感情か、確認をする暇を持たせず姿を消した。


「僕たちも行きましょう」


「うん、そうだね...。」

浮かない顔を浮かべ納得のいかないといった顔つきで中々罰の悪い印象だ。相手が相手だったので不満を持つのもわからなくは無い。


「軽い事件と表現するには、悲惨が過ぎていたでしょうか。複数も死者が出ていましたしね」


「いえ、そこはいいのよ。ってまぁ良くはないけど、でも謎を解いて解決してくれた。だからそれは違う」


「ではなんです?」


「うん、なんていうかその..参考になったのかなって、単純にさ。科学者の話って言っても別にいうほど科学っぽくなかったし、あれで満足したのかなぁって、それだけだよ。」


「....満足はわかりかねますが、参考にはなりませんでしたね」


「え?」


「あの方は結局『戦い』というところに重きを置いている気がします。陥れて、マウントを取ろうと。しかし僕は単純に解決策の参考例を聞きにいきました。そういう意味では、何も身になる情報は与えられませんでしたね。」


「……そっか。」

軽く察した、この人は多分一人よがりでは無く独りのスペースが極端に広い人間なのだと。嫌われても干渉はできる、だけど探らせない、だから嘘や謎を解くのが好きなんだと。広く持て余したスペースに物を置くために


「私の事って信じてる?」


「信じてませんよ、参考には随分とさせて頂いてますが。」


「...充分ね、それで」「そうですか」


➖➖➖➖➖➖


 脱力性無力感という言葉をご存知だろうか。逃げ場は無く、抗う術も無い場所で長期間無理を強いられ、思考が停止し、現状を改善する事すらままならなくなる症状である。


「それが君達だ、わかるか?」


古ぼけた集落の教会に集められた人間は皆俯き浮かない顔をしている。


「僕たちに何が出来る?

生きている意味すら無い人間だぞ」


「それが意味をなすとしたらどうだ?

君は確か度重なるイジメで心を傷めたそうだね、残酷な事だ。」


学校という箱庭で、執拗に罵倒や蔑みの拷問を受けた。助けは来ない、死んでしまいたいと本気で思った。


「今更何ができるのさ、揶揄いならやめてよね。迷惑だからさ」


「君は確か、両親からの虐待だったね

実の親から仕打ちを受けるなんてね」


生まれたときから愛情なんて言葉は馴染みがなかったという。親という存在の常識もわからず、おかしいと気付いた頃には犯行の仕方もわからなかった。


「無力だよ、私は。」


「...辛かったね、だが心配は無い。ここに集まっているのはそんな人達ばかり、時代のダークサイドのまさに集いだよ。次は君達の復讐の時間だ」


「私たちの..?」


「なぁ、今日アイツいつもより演技クサくねぇか。」


「そう?

いつもあんなでしょ。」


英雄たる由縁はどの役もこなし誰の感情も揺さぶる事が出来るから。相手の標準に合わせる事で馴染みやすい環境を提供する。いつでも下げる事の出来る高いプライドは使い勝手がいい。


「これを見るんだ。」

棚の上、不自然に盛り上がる布をめくると小さく光るキューブが現れる。


「何よ、それ?」


「私たちが僅かずつ魔力を入れ込んだいわば動力炉、これを君達に渡そう」

男がそれを握り潰し粉々にするとエネルギーが溢れ飛び、集まった人々の身体の中に魔力が吸収されていく。


「なんだ、コレ....力が!」


「一度取り込まれた魔力は時間を掛けて徐々に馴染み力を付けていく。」


「熱い...身体中が熱いぞ..!」


「さぁ存分に力を奮ってくるといい、使えば使う程馴染むのは速い。」


魔力は完全な体質で生成されるもの、持たないものは全く持たず持つものは有り余り溢れ出るものもいる。一度生成された魔力は血管や組織に新しい情報として認識され、正式な身体の分泌物となるため枯渇はしても消滅する事は無い。身体の新たな組織に変貌する。


「街はパンデミック、魔法の逆襲だ」

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