11話 違和感の呪術

 疑問には感じていた。ここまでの計画を簡単に洗いざらい吐くだろうか。


「貴方本当に英雄ですか?」


「..今更何を言っている、お前。」


「いえ、自らを高貴と名乗る貴方にしては嫌に不格好だと思いまして。まるで自分ではない黒子か影武者なんかに身体を預けているかのように。」


「...察しがいいな!」


「否定しないの⁉︎」


「隠し事は大嫌いなんだ」

英雄と設定した情報リテラシーでは嘘など直ぐに発覚してしまう。ならどうするべきかと頭を動かし行き着いたのが、『バレる前に言ってしまう』という行動的な結論だ。


「バカだこいつ..」


「おっとよく考えてみろ?

俺が影武者なら、他の連中はどうだ」


「これは...」「二人とも、離れて!」

大柄な男の身体が赤く染まり、熱を噴き出し膨張する。


「あいつ、自爆するつもりよ!」


「早くこっちへ、ドーム・マリン!」

 飼育員ミロクが咄嗟に生成した球状の水の中に身を潜め難を逃れる。膨張した男の身体は音を立て爆発し会場の側面を大きく崩壊させた。


「消えた..?」


「派手な事をしてくれますね、飼育員さん判断能力に感謝します。」


「いえ。それより、奴らはどこへ?」

「お亡くなりに..まさかね。」

姿は跡形も無いが不明確なものに不謹慎を叩きつけるのも野暮な話だ。


「死んではいないと思う、ていうか初めからエレメントの分身体だよ。少しだけ雷と火のエネルギーが残ってる」


「わかるんですか?」


「一応、魔術講師だから。

私もつくろうと思えば分身作れるし」

文字通りの影武者で宣戦布告といったところか、野望を口に出して話したのは警告に近い『私達が動き出すぞ』といった合図かもしれない。


「おい、何かあったのか!?」


「誰アレ。

バリーちゃんの知り合い?」


「カブトムシのお友達ですよ。」

音を聞きつけ政府の犬が臭いを辿ってやって来た、全てが終わった後で。


「客人達の通報で駆けつけたんだが妙な物音がしてな、何の音だ?」


「その前に、誰ですか。」


「あ、これは失礼。

刑事のハーパーだ、挨拶が遅れた」

手帳には白々しく口をキリリと結んだ短髪の男の姿が。一体誰の写真だろうか、見る影もなく白々しい。


「ってお前、探偵じゃないか!

またお前が一枚噛んでいやがるのか」


「人を犯人のように言わないで下さい

理解できるか分かりかねますが、悪人は目の前で自爆して姿を消しました。」


「何を言っているんだお前は?」


「バイラルさん、遠慮はいらないので彼にライトニング・ドラゴンを放って下さい。できるだけ全力で」

犬猿の仲というより最早、龍虎相撃つといった勢いで凸凹が加速している両者だが、意図せぬ巡り合わせで頻繁に遭遇してしまう。


「ですがまぁ今回ばかりは都合が良いです。丁度僕では手に負えない大事件が起こりそうなので、是非警察に擦り付けたいと思います。」


「俺たちはウンコ扱いか?」「はい」

怒り気味のハーパーも話を聞けば飛び付いた。話題が話題だ、平然と無視をする訳にもいかない。

「世界を一つに!?

新しい国を作るだと、何を言ってる」


「僕に言わないで頂けますか?

ただ聞いたままを話しただけです。」


「酷い目にあったんだな、お前」


「まったくですよ、意図しなかったにも程があります。」

水族館で水槽を泳ぐ小さな魚を観察する筈が、大きな男と英雄に殺されかけた。逃した魚は大きいというが、見て見ぬフリをする事も大事である。


「正直管轄外だと思っているので、役に立たないといえど警察に頼むのが一番でしょう。..我関せずが望ましい」


「...よし、決めた!」「なんです?」


「この件に関して探偵、お前を正式な操作協力者と認めるぞ!」


「......はぁ?」

遂に露呈した、外交的な人間特有の有り難迷惑モード。誰も得をしない、勘違いが息をしてる修羅の時間が。


「ライトニング・ドラゴン...魔力されあれば。」

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