答え合わせ。

 箱庭というものは便利だ、態々身体を動かさなくても声を上げれば人が集まって束になる。


「解決したのか探偵?」


「そうでなければ声を掛けないと思いますが、他にも用などありませんよ」


「可愛くないな、お前。」「はい」

ハーパー刑事には当たりが強い。

信頼しているからではなく単に嫌いで見下しているからだ。


「今回は先ず、殺しの仕組みの方をお話ししてから犯人を言います。事態が不自然から発生したので、事の真相も白々しく勿体ぶる事にしました。」


「捻くれてるわね..」


「協調性皆無ワロタ笑笑」


「あなたが言う?」


「それを奥さんが言うんだ..。」


庭では多くの個性が協調性を脱いではしゃぎ倒している。それを気に留める事も無く話を続ける。


「早速殺しの手口ですが、正直僕は落胆するほど短絡的な安易なものでした一応説明します。」

探偵はマーガレットの座っていた受付の隔離空間に立ち正面を見つめる。


「マーガレットさんは当然ですが、管理人なので誰よりも早く図書館に入ります。本日は恐らく本棚を整理しようと試みたのでしょう。」

マーガレットは気まぐれに、思い付きで行動をする事がある。

前触れは特に無いが、観察をすれば直ぐに後から分かるほどアバウトな事柄ばかり。


「棚を確認したら、本の配置が全面的にすげ変わるように異なっていましたしかしマーガレットさんは華奢な女性どうやって棚を動かしたのでしょう」


「特殊な方法があるのか?」


「特殊といっても、単純な魔法ですけどね。スピアー・ピンです」


スピアー・ピン

指からワイヤーのような細く鋭い糸を放出し自在に操る補助魔法。少し工夫すれば先端をフック状にして対象物を引っ掛け移動させたり、伸縮や速度を変えれば遠くの物を引き寄せたりする事も可能。多様な使い用途がある


「よく見ると棚の側面に穴が空いています。収納された本を傷付けず糸を入れ込めるのはとても器用ですね。」


「それを今見せてくれるの?

だからそこに立ってるんだよね」


「生憎僕は魔力が無いので披露は出来ませんが、殺しの手口も同じです。本棚の隙間から、研ぎ澄ました糸を伸ばして首の動脈を貫いた。」


「そんな事をすれば本棚みたいに首に穴が開くだろ。」


「開いたとしても限りなく小さな穴です。本棚は余りにもマーガレットさんがアバウトだったので目立ってしまっていますが。本来は目立ちません。」

糸は微量に振動する事で対象に穴を開ける。肉を断ち脈を裂いた。血を吐いているように見えたが、首から大量に出血し、それが口から溢れ出ただけだったのだ。


「ここに立ったのは、僕が犯人では無いという意思表示です。」


「どういう事?」


「理解に苦しむなり。」


「..つまりその糸を出せないのであれば犯人の証明にはならないと。」


「御名答、作家さんは理解がはやい。この中で魔力を持ち、より精巧に糸を作り出せる方が犯人です。」


一人目として証明して見せた。ここに立ち、棚に穴を開ける程、人を殺める程の糸を張り巡らせる事の出来た人物が主の根源となり得るという。


「さ、お一人ずつどうぞ」


「待ってくれ、確かに効率は良いが犯人だと分かってしまうなら不正をして魔力の無いフリをするんじゃないか」


「必死の弁解、意味深なり笑」


「そんな事言ってあんたかもしれないよ、平気でズルとかしそうだし。」


「人の事言えなし笑

お互い様のパワーバランスだし笑笑」


「うっざ..。」


「ご安心下さい、もし不正を働く者がいればそのときはですね..刑事さんが首の骨をへし折りますので」


「するか、俺が犯人じゃねぇかそしたら。普通に注意をしてやる」


「それでは先ず子持ちの皆様、魔力の確認を正直にお願いします。」

三人の母体が回り込み受付席へ、一人ずつ前に手をかざし指先を見る。


「出ない..。」「除外ですね」

三人の主婦の内二人は魔力を持たないか極端に薄い。

残る一人は出るには出たが上手く形にならず、少なくとも人を殺める鋭利性はまるで無い。


「サラさんは魔力をお持ちなんですね補助魔法は使用しないようですが。」


「..娘の為に少し習ったの、何があるか分からないから、護身用にね。」


「素敵な事です。

さぁ続いてご確認下さい」


「ほら行け愉快犯!」

勝手に決めつけないで。..お兄さん、先に確認する?」


「いや、僕はあとで大丈夫です。」


「そう?

いいのね、なら私先やるわね。」


「……。」


ハーパー刑事は疑問を感じていた。他人や動機に興味が無く、謎を解き明かしたいだけの探偵が時間を掛けて犯人を野放しにしている。敢えて時間を掛けているのだろうか、その先にある何かに備えているように思えた。


「遊んでいるのか探偵?」

 子供達への配慮だろうか。

暇を持て余し時間を潰しに来たにもかかわらず事件を早く解決してしまっては多大な隙間が生まれてしまう。主婦や子供に配慮した、良心的な取り組みだと刑事は判断した。


「なかなかやるじゃないか探偵..!」


「独り言はやめて頂けますか?

勘違いにも程があります、簡素な事件を複雑化させているだけです。僕は入り組んだ謎が好きなので。」

人など二の次三の次、あくまで追求するのは己と探究心と好奇心のみ。周囲の環境や状況などおかまい無しに好みをものを選び喰らう


「どう?」


「おや、今までで一番張りが良いですね。しかし自在に操る事が出来るという訳ではなさそうですね。」


「当たり前よ、今初めてやったもん」


「なるほど。それなら不可能だ」


「でしょ、もういい?」「はい。」

主婦に次ぎアパレルも除外、魔力があり糸も作れるが殺意が見られない。


「魔法なんて清算のときしか使わないし、人殺しなんてする訳無いよね。」


「念押しワロタ笑笑

不安だったんじゃねぇかよwww」


「うるさいっての!

終わったからいいの、あんただって早くやりなさいよ、魔力あんの!?」


「は、ありまふけど〜?

見た目や性質だけで何も出来ないとか決めつけないほうがいいと思われます無理だと思うけど笑」


「うっっっざっ!!

早くやれば、証明して来なよ!」


「何故だか怒っておられる...嫌ですな短期は寿命を縮めますぞ?」

「いいからはやく行きなさいよ!

でないとあんたの生やした草大炎上させるんだからね!」


「コワス、拙者ガクブルでありんす」


身体を震わせ怯えながら受付席の中へ

暫く両腕を前方に伸ばし、数分後、全ての指先から、ほつれた縄のような紐状の繊維が垂れ下がり、床に落ちた。


「プッ!」「……!」


「..犯人では、無いようですね。」

 頬を赤くして辱めをどうにか緩和しようと頭を抱える。それを尻目にアパレルの女が腹を抱えて笑いを堪える。


「ちっげえし..違えし!

偶々上手くいかなかった、そうだ!

偶々上手くいってない何でだ?何で?

調子悪いからか〜、寝てない、そういえば昨日寝てないんだったわ〜!!」


「お下がりください。」


「え、何、信じてない?ホントだよ?

見て、目ぇ見てほら、この濃いクマ!

ホントに昨日寝てないんだってば!」


「..言いましたよね?

〝お下がりください〟と。」


「...はい、ホントごめんなさい..。」

無表情であるが、血走った目は既に怒りの限界点を超越していた。聞き分けの悪い人間と、大きな声が大の苦手の探偵は、そうした人物に特に情けをかけずゴミ扱いをする。


「最後になりました、お待たせしました。受付席へお立ち下さい。」


「..うん、わかったよ」

常に冷静であった寡黙な青年は文句を言わず定位置に立ち、手を前へ構えた


「……。」


特に何も起こらない、魔力を持っていないのだろうか。疑いはまるで無い。


「これも無しか」


「..もういいかな、わかったでしょ。

僕は対象外みたいだよ?」


「いいやそんな筈はありません。」


「何?」「どういう事?」


「すみません、皆さんに嘘を付いていました。というより、皆さんが単純に気が付かなかっただけですが。」


「..私に何したの?」


「気が付かなかったって何の事です」


「マーガレットさんの贈り物です。」

受付席の内側、丁度足の爪先が位置する箇所の少し脇に、よく見ると丸い機械のようなものが置かれている。


「..何これ?」


「魔力を測るセンサーです、魔力を充分に保持していると備え付けのランプが赤く光るのですが、貴方は一体何色を示しています?」

青年の足元は真っ赤に光り、これでもかと魔力の濃さを表している。


「貴方が犯人ですよね、ケントさん」


「……!」

満を持しての宣告、逃げ場は既に無い


「君がやったのか?」


「...どう思ってるの、おじさんはさ」

「なに?」

煽りか悪あがきか、質問に好戦的な態度で質問を返す青年の目は、いつぞやの探偵と同じで血を走らせていた。


「なんでやったと思う?

理由があると思う?

やられてどう思った?悲しい?辛い?

僕はどう感じてると思う?」


「何コイツこっわ..。」「ひぃっ!」


喜怒哀楽のどれとも分からない、崩壊した笑顔と共に自我が砕けていく。


「お前はこうなる事を知ってたな?」


「さぁ、なんの事でしょう。

知りませんよ、人の性なんて」

特徴ある形の机は触手のように自在に伸びたスピアー・ピンに跳ね飛ばされ形を失った。張りや鋭さから確実にマーガレットを射抜いた形状と同じと判断できそうだ。


「子供を連れて下がれ!

..探偵、どうすれば防げる!?」


「そうですね、取り敢えず本棚を盾に後退するべきでしょう。」


「よし、そうしろ皆わかったな?」

「貴方何もしてませんね。」


「かくれんぼか?

あのババアより楽しめそうだな!」

糸が消え、しなる残像だけが目で追える。補助魔法を武器として、姿を消す補助魔法を上からかけたのだ。


「おい、見えなくなったぞ!」


「..頭を使うのは僕の役目ですか。」

一度近くの本棚へまわり幾つか本を取り出し抱え再びハーパーの元へ


「この辺りの本は確か廃棄用でしたよね...よし、大丈夫そうだ。」


「..おい何してる、何するつもりだ」


「そのまま突っ込んで下さい」


「何!?」「いいから頼みます。」

遂にさじを投げたのか本を軽くめくりつつ邪険にするように掌をヒラヒラと煽るように振りながら雑に指示をするようになった。


「こうなれば当たって砕けろだ!」


「砕けて下さい」「嫌だよ!」

考えるな、感じろと思考を度外視して突撃する。案の定危険は伴い異業と化した犯人は脅威をこちらへ向けてくる


「い〜ち、に〜い、さ〜ん...。

なんとな〜くわかりました?」


糸は振動によって対象を傷付ける。

廃棄用の古い本を投げ糸に当てる事で複数延びる糸の速さを測り、距離を詰めるスペースを確保する。


「見える、見えるぞ糸が!」


「見えるようにしているんです。」


「おいおい体力野郎か?

近付くなよ、本棚の裏にはガキや女がいるんだぞ。どうなったって..」


「後で助ける!」「うぅっ!」


「無駄ですよ、頭を使うという習慣が彼には無いので。」

学生時代はラグビー部だった。タックルには今だに定評が残る。


「確保!」「離せ!」

足をバタつかせ抵抗するも身動きがとれない。何せタックルには定評がある


「あと手錠を掛けるだけですが念の為裏に隠れていて下さい。激昂すると面倒なので、犠牲者は一人でいいです」


「俺の事言ってんのか!?」


「貴方の事は忘れません」「おい!」

 体力に信頼を置きタフだと称賛している訳でなく、本当に生死の有無にこだわりが無いのだ。何故なら探偵はハーパーが嫌いだから。


「何なのあいつら、訳わかんない。」


「あの構図が理解出来ぬとは笑

脳筋でふ、思考回路ジム通いwww」


「うっさい!

ていうか何で私と同じ棚に隠れてんの

まじやめてほしいんだけど」


「たまたまなり〜、仕方ないなり〜。

え、追いかけてきたとでも思った?

勘違いでおま笑、そんな訳ないちw」


「うぜぇこいつ。

..はぁ、何でこんな疲れんだろ」

髪をかき上げようとこめかみに手を掛けると指が触れ、イヤリングが外れた


「あっ..ヤバ。」

イヤリングは棚と本の隙間から表へ飛び出し裸で床に転がっている。


「取りに行かなかきゃ」


「やめたほうがいいぞよ、まだ犯人おるし、いいだろイヤリングくらい。」


「ダメだよ、あれお母さんに貰った大事なやつなんだ。取りにいってくる」


「おいやめって...ママ?

確かにママは、唯一ちんぼくに優しくしてくれた。ママ、今何してるかな」

〝気持ち悪い〟と罵られて来た彼にとって母親はいつも優しく味方でいてくれた大いなる存在。


「ママを愛する者はいいヤツだい。」


「あった、良かった〜!

壊れてないよね、大丈夫だよね?」


破損箇所がないかを確認し耳にあてがう、しかし手探りでは中々刺さらないものだ。苦戦を強いられる。


「ビンゴ!」


「馬鹿、なにやってる!」「え..?」


「あそこにもいましたか、本能のまま衝動的で活発な方が。」


「流石に間に合わんぞ..!」

 動きは読める、真っ直ぐにただ射抜くだけ。しかし足が合わない、起き上がり駆けつけるにはどうしても動力が足りない。


「早く戻らなきゃ..。」


「遅せぇよバーカ、死ね!」「嘘。」

母の贈り物が命を縮める要因になるとは思いもしなかった。命よりも大切なと言うが、結局は命を優先するべきなのだと直前で知ることになる。


「バイラルさんを連れてくるべきでしたね。..まぁ、今回は余り気に留める必要も無いようですが。」


「なんで...?」


「お前、なにしてんだよ!」


「ヒヒッ馬鹿だ、バカがいた。」


「え、なんでよ?

なにやってんのよ、あんた!」

探偵は見誤っていた。衝動的で活発な者はもう一人、身を隠していた。


「クソワロタ..腹に穴空いてる...w。」


「笑ってる場合じゃないでしょ!

何表出てんの、なんで隠れないの..」


「お母さんが大事だって言うから」


「..え?」

色々なものを批判し中傷してきたが、親を罵られたときは本気で怒り狂った


「けっ、つまんね。

まぁいいや、なんか満足♪」


「あっ!」「ちょっと!」

糸を抜かれると全身の力が抜けた。張り詰めた精神が開けられた穴から一気に抜けたのだ。

「...バカ、無茶しないでよ。」


「助けたのに泣いてる笑笑..普通喜ぶべきなりよ?」


「刑事さん、早々に連行してくれませんか。危険を伴います」


「わかってる、待ってろ。直ぐに仲間が来る。安全も保障する」


「そうですか、それでは後はお任せします。僕は用が済んだので」


「あ、おい。」

謎を解き終えると、静かに出ていった『図書館では静かに』を最後まで護っていたのは、結局彼だけだった。

暫く経てば犯人を警察が囲み、平和の要塞が出来上がる。


「お母さ〜ん。

としょかんがこわい場所になったよ」


「大丈夫よ、みんな終わったから」


「心配するな坊主。」


涙目の子供をあやす母親の元へ駆け寄りハーパーが子供の頭を撫でる。


「よく我慢したな、良い子だ。勇気のある子は見込みがある、ウチの娘の友達になってくれないか?」


「...いいよ。」「そうか、頼むぞ!」

彼には魔力は無いが、人を護る程度の力がある。人に寄り添い正義を掲げ、平和をもたらそうと奮闘する。

そういったところが探偵の受け付けない箇所だが、体力の使い方は重んじている。


「今すぐ連行だ!」

彼の名はハーパー、警官だ。

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