9話 ページをめくれば。

 被害者は図書館管理人マーガレット

朝6:00頃には現場に着き、受付席へと座っていた。8:10分を過ぎた辺りで突然咳き込み口から血を噴き出し絶命。


「何だこれ、呪いか?」


「呪術の可能性もありますが、相当な集中力と魔力が必要ですからね。簡素な死の様子からみると非効率では無いでしょうか。」


「真面目に言うか、例えだ例え。」


「そうですか。」


「..ったく。

犯行時にいたのは殆どが子供だ、殺しだとしたら時間差の毒か何かかそれかまぁ..これはあり得ないが、狙撃による射殺かもしれん。」


「真面目にやって下さい」


「..お前、俺の事嫌いだろ」「はい」


気遣いに重んじず、嘘が大の苦手な為探偵をしているがそれはひとえに、現状の本当の姿、真実を明確にしたいだけなのだ。


「受付の席は敷居のように丸い机の内側に入り、距離を開けた空間になります。正面からの直接的な外傷は目立ち過ぎる、かといって隠れて行うのも此処では不自然な気がします」

 本棚に隠れる事は容易だが、他にも本を探している来館者がいる。怪しい動きをして、疑問に感じない筈も無い。


「縦に三列ずつ、合計18個の本棚があり、受付の席からは棚の内側に隠れれば一切見えなくなります。」


「...だから何だ?」


「一応、狙撃は行えるかと。」


「....お前やっぱり俺の事嫌いだろ?」


「はい、役に立たないので。」


結局南の島の事件のときも、到着したのは全てを終えて犯人が動機を打ち明け切った後だった。正直探偵は、ハーパー刑事や他の警官を信用していない。


「聞き込みをしよう。

お前は苦手だろ、話を聞くの」


「ええ、興味が持てないので。

是非お願いします。」


分担はいつも通り、他が話を聞いて、自分は謎を解き明かす。聞き込みは重要な役回りだが、探偵は関心を持たず〝お茶を濁している〟程度にしか感じていない。


「すまんが強力してくれ、マーガレットさんの死についてだ。子供は下がっていいぞ、殺しようが無いからな」


「有難う御座います。」


「ああ、だが親御さんは動かないでくれ。残念だが、疑わないとならない」


「..子供に疑問を持たれないなら構いません」


「ご理解有難う御座います。」


本など廃れた文化だと思っていたが、思っていたより来客があった。子供の前ではかなり酷だが、被害者が出た以上親も加害者になり得ると疑いざるを得ない対象となる。


「名前と身分を教えて頂けますか?」


「はい。

サラ・シュバイト、主婦です。」


「今日はお子さんと?」


「ええ、外にお出掛けをしようと思って娘を公園に誘ったんですけど、図書館がいいと言い出して。あまり騒がしいのが得意ではないんです、穏やかな子なので。」


「そうですか、わかりました。」

他にも子連れのキラ、ムース、サリーも似通った理由で図書館へ。


「続いてお一人で来ている方、いつ頃からここに?」


「僕は7:30分頃ですかね、休みの日はよくここに来るんです。」

手前の眼鏡の男性が丁寧に答える。


「コマツ・カワラです。」


「お仕事は何を?」


「少し連載している程度ですが、作家をしています。」

週刊『マインド』という情報文芸誌で連載を持つ、休日や話の展開に行き詰まるとよく図書館で過ごす事があるという。


「マーガレットさんと面識は?」


「..とても優しい人でした。

僕が小説を書いている事も知ってくれていて、毎週話を読んでは感想をくれて。なのでわかりません。何故あの人が殺されてしまったのか、誰に恨みなんか..」

目頭を熱くさせ悲哀の念を浮かべて拳を握り締める。


「まだ憎しみによる犯行とは決まってないので、落ち着いて下さい。」


「...すみません、取り乱しました..」


「中々、神経を使いそうだな..。」


残るは派手な出で立ちの女と挙動不審の男、そして学生と思しき青年。


「事件?」「そのようだ」


「早くしてよ聞き込みでしょ。私はやってない、これでいい?」


「申し訳ないが、詳しく教えてほしい

人の命が無くなっているからな」


「ひひ..警察におこられとる、笑。」


「うるさいのよオタク、黙ってて!

..名前はコウメ、アパレルよ。」


「コウメでアパレル..着物屋かよ笑」


「あんた、本当ブン殴るよ!?」


「落ち着いて下さい。

ここにはよく来るんですか?」


「..うん、お母さんの影響でね。静かに本を読むのが好きだったから、マーガレットさんを見るとなんか思い出して、母の事。」


「..優しい人だったんだな。」

 マーガレットは管理人というより母という印象が強かった。誰かに寄り添い居場所となってくれていた。彼女の死は多くの人にとって『肉親の死』を意味しているのと同じだ。


「続いては君だ、電波系。」


「電波系とは奇天烈な表現..!

ちんぼくを疑ってるって訳かねぇ⁉︎」


「ちんぼく?」


「多分〝ぼくちん〟って事でしょ。」


「あーなるほどな。」


「御名答、嘘、正解、なかなかやる笑

思ったより君やりよるわハハ笑笑!」


「うっざい、ホント相性悪..。」

癖がかなり強いので人一倍手間が掛かったが、彼の名はエミリ。

電波系とは遠からずシステムエンジニアで普段は中々根を詰める作業をしているという。図書館に通う理由は機械よりも紙という媒体にグレードを少し下げる事で優越感に浸れるからということらしい。


「悪趣味ね、あんた」


「人の趣味を笑うな、無個性!」


「うっざ、なんなのコイツ。」


「最後になるが、話を聞かせてくれ」


「名前はケントだよ。

ただの学生、ここにくる理由は、僕あんまり友達いないから。落ち着くんだよね、後は..特に言う事無いかな。」


控えめで冷静な青年、彼に持つ印象はその程度だ。他が強いからなのだろうか、余り人間味を感じない。


「協力有難う、取り敢えず自由にしていてくれるか。充分不自由だがな。」

流石の手際といったところか、多様な人々を適切に捌く手腕。それだけの力があるのに、何故娘の気持ちを汲めないのだろうか。やはり根性論では限界があるのだろう。


「怪しさはまるで無いな、皆普通の来客といった感じだ。それに被害者を尊敬してる、殺す理由が無い。」

嘘を付いている素振りもなければ殺意も見られない。急死や病死、身体的な異状を疑う線も考慮するべきだと視野を拡げていくべかもしれない。


「部下に連絡してかかりつけの病院がないか調べてもらうか?」


独自で動く事も出来るがハーパーには一つ敢えて動きを止める要因となる気掛かりがあった。


「あいつの推理、聞いた方がいいか」

探偵の力だ。


➖➖➖➖➖➖


 人との交流を極力避けたいと願う探偵にとって、感情ほど煩わしいと感じるものは他に無かった。マーガレットにも特別思い入れは無かったが、日頃通っている空間に支障が生じるのは決して良い気分では無い。むしろ怒りに近い感覚を帯びている、感情では無く物理的な自室に不満を覚える。


「ここの棚、少し配置が異なりますねおや、ここもだ。」

配置された本の種類がいつもと違う、一部ならまだしも、ごっそりと総て。


「マーガレットさんの力で棚を大きく動かすのは随分と手間がかかりそうだ床に引きずった跡も無い。」

少なくとも、身体で押した訳では無さそうだ。図書館には頻繁に通っている本棚の位置や本の配置が変わっていれば直ぐに気付く。


「丁度先週この辺りでミネルヴァの羽について調べたばかりだ。」

しかし目の前の棚にはその本が無い、確実に本が移動している。


「通常本の配置などはいつ頃変えているのだろうか。亡くなったしまえば聞く事すらもままならない。」

死人に口無しとはよく言ったものだ。


「まぁいいや、粗方分かりましたし」

証言者がいなくともアイテムを拾えば

あとはつるぎを構えるだけ。


「さぁ

魔王を倒しに向かいましょう。」

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