4話 死者の譜

 「貴方はここに残って下さい。」


「自由は無しか、構わないが」

 主戦場であった場所は最早牢獄。

事件現場へと成り下がった場所では元のあるじのようは顔は出来ない


「..そういえば聞いてませんでしたね、名前を教えて頂けますか?」


「私の名前か、キュレフだ。

キュレフ・アイザスキー、覚えたか」


「把握しました。実験に使った器具を少し確認させて頂きます。」


「..好きにしなさい」


殺風景な実験室で器具を物色している間、扉を超えた廊下では、杖の魔術師が聞き込みを続けていた。


「賑やかね、皆..危機感無いみたい」


「そんなものですよ。

ここは学校といっても技術を教わる場所なので、生徒間の関係というのは薄いものなんです。」

興味を持つのは魔術のみ、友人を作りたいのであれば個人的なコミュニティで集まって話す。そういった割り切った空間が広がっている


「友達はいなかったの?」


「いましたよ、一人だけ。でもいなくなりました。今さっき目の前で」


「そう..ごめんなさいね、聞いてはいけない事を聞いてしまった。」


「いえ、そんな事は..別に」

ミルはいつも大きな本を抱えていた。魔術の授業には基本的に教科書の類は存在しない。

その日のカリキュラムに合わせて、テキストを直接身体に魔力として植え込むからだ。


「大事な本なんだね、それ。」


「こら、キュレフ先生からいただいたものなんです。」


「キュレフ先生から?」


「はい、私科学の魔術には最近特に力を入れていて、色々と模索していたらこの本を手渡されて。」

杖の魔術にも一応関連書物は存在するが、振りやすい杖の形状やルーツに基づいた歴史の話ばかりでまるで参考にならない代物だった


「少し、読ませてもらってもいい?」


「いいですよ、どうぞ。」

 ズシリと重い本を開けば記載されていたのは様々な呪文の数々、科学魔法と思われるそれらは名称や効力、使い方まで詳しく記されていた。


「今先生が使っていたのは多分これ、リフレクト・クラウド。外部の情報を取り入れて拡散させる雲を作る。」


「あ〜、あのカラフルなやつね」


「...でも不思議なんですよね。」


「何かあったの?」


「先生が煙を発生させたとき、匂いがしたんです。」


「具体的にどんな風か覚えてるかな」


「..難しいんですけど、どこかで匂ったような。それも凄く近い感覚で、何の香りかはわからないんですけど」

仄かに鼻を抜けたのは実態無くとも馴染みのある独特な香り。


「煙たさとは違うんだよね?」


「はい、はっきりと香りでした。」


「嗅覚を刺激する薬品?

五感を翻弄させる効果でもあるのかももし思い出したら直ぐに教えて..」


「お二人とも入ってきて下さい。」


「わっ!」「わかりました」


ガラリと突然扉を開けて探偵が声を掛ける。周囲の状況など把握するつもりが一切無いので、タイミングが悪いのは当たり前だ。


「後の子達は?」


「構いません。」「え⁉︎」

纏まりが無いものは放置して集まるのを待つ、そこまでの神経は推理に使う人にかまけている時間はいらない。


「キュレフさん、お暇を取らせてしまい申し訳ありません。」


「もういいのか?

..といってもここは私の部屋だ、大した変化は無いのだが。」


「ええ、ですがご安心下さい。

暇を持て余す事は無いと思うので」


「何かわかったのか?」


「はい。

お陰様で必要なアイテムは揃いました」


「アイテム、それは何よりだ」


「犯人がわかったの?」


「ええ、わかりましたよ。」「え?」

地図を頼りに洞窟を抜け、装備を揃えて鋭い剣を突き立てる。


「さぁ

魔王を倒しに向かいましょう。」

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