美味しいキスはワインの前に

ざわみざわざわわ

第1話 魔女とキスを

魔女。

人々は彼女のことをそう呼んだ。

なぜそう呼ばれているか、理由は定かではない。

若い女の血を飲んでいる。なんて、よくわからない噂まであった。

そんな彼女が今、私の目の前にいる。

我が家のベランダでワインをあおりながら、静かに空を見上げている。

「どうかなさいましたか?」

そう問いかけても答えはない。

沈黙が続く。生憎私はこれ以上彼女にかける言葉を持ち合わせていなかった。

しかし彼女はそんなことなんともおもっていなかったかのように

「今日はいい日ね。泣けてくるほどにいい日ね。」

ワインを飲み干し独り言のようにつぶやいた。

あの時彼女は何を思ったのだろうか。私にはわからない。

わからないが、あの時の彼女はこの世の誰よりも美しかった。

惚けてるいると彼女は、

「帰るわ。またね坊や。」

と私にキスしベランダから飛ぶように去ってしまった

キスは少し苦くて渋い味がした。

これはとある魔女に恋をした私の魔女との別れの物語である。

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美味しいキスはワインの前に ざわみざわざわわ @aoharu0704

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