第3話 おとぎ話

 神を自称する男―――タケルがデーモンを倒した後、大変だったわ。

金ぴか鎧が逃げようとするので、縄で縛らなきゃいけないわ。

私たちが気絶させた鎧たち全員を拘束して、村まで運ばなきゃいけないわ。

村の人たちに事情を説明しなきゃいけないわと、大忙しだった。


「さて、ようやくひと段落ついたわね」


私はため息をつきながら呟いた。

宿の狭い部屋の中には、ジェニー、ローラ、タケル、

私を含めて四人がそれぞれベットや椅子に座っている。


「なんじゃ、狭い部屋じゃのぉ。人の子たちは三人でここに住んでいるのか?」


「いや? 宿は同じだが、部屋は別だぜ。何ならこの後、私の部屋に来るかい?」


「おぉ、丁度いい。世話になるとするかのぅ」


「あの、モラルとかって無いんですか? ジョニーも、タケルさんも」


先ほどから無駄話をしている三人に声をかけて、

今話すべきことを話し合うとしましょうか。


「ちょっと、今はそんなこと話してる場合じゃないでしょ。そこのタケルとか言う怪しい男に、色々聞かなきゃいけないでしょうが」


「む? 我の何が気になるのじゃ? あぁ、久しく地上を離れていたことについては我も覚えてはいないから、他の神に聞くが良いぞ」


「はい、止まって。普通に神に聞けとかほざかないでくれるかしら?」


頭が痛くなってきたわ。こいつ、完全に自分のことを神と思い込んでいるわ。

あー、王都では最近デンパ系? とか言う男が増えてるって聞くけど、

そういう類かしらね。


「フィーナ、神様云々の話はこの際置いておきましょう。重要なのは、彼が何処からきて、何を目的としているかです」


ローラが話を整理してくれる。確かに、その通りね。

私たちはまだ彼のことを何も知らないわ。


「じゃあ、私が質問するぜ。タケルちゃん、とんでもなく強いけどスキル発現者だったりするのか? 男であんだけ強けりゃ、王都とかで何か特殊な仕事をしてたり?」


「……悪いが、そのスキル発現者という意味が分からん。

そもそも、スキルとはなんじゃ」


「えー、そこから分からねぇのか? 

タケルちゃん、もしかしなくても記憶がない?」


「うーん、思い出せない記憶がいくつかあるのぅ。そもそも、なぜ我はあそこで眠っていたのじゃ? いつまで寝ていたのじゃ? 思い出せぬ」


唸り声を上げ始めるタケル。

これは、ほとんど何も覚えていないって言いたいらしいわね。


「仕方がないわね、先ずはスキルについて教えましょうか。

スキルっていうのは、あの戦争時代に恵の神から人類が授かった祝福の内の一つ。

それを現代まで受け継ぐことのできた者をスキル発現者って呼ぶのよ」


「スキルの効果は人それぞれだな、私の強撃きょうげきは攻撃の威力が上がるっていうシンプルな効果だ。まあ、フィーナも似たようなものだな。私たちが冒険者をやっていられるのも恵の神様のおかげってわけさ。ありがたや、ありがたやってね」


「スキルは、戦闘経験を積むことで発現しやすくなるらしいですね。一応、全ての人がスキルを発現する才能は持っているらしいですが、私は発現していないです。

まあ、私には魔法があるので問題ないですが」


私、ジェニー、ローラと、三人で立て続けに説明をしたところで

タケルはさらに難しい顔をした。

……デーモンを倒したあの力を見るに、彼もスキルを持ってると思うのよねぇ。


「何よ、質問は受け付けるわよ。それとも、何か思い出したかしら?」


「ふむ、では一つ質問じゃ。あの戦争時代とは、いつのことじゃ?」


「んー? 変なこと気にするなぁタケルちゃん。今から五百年以上昔の話だよ。

まあ、おとぎ話にもなってるから、知らない奴は珍しいけどな」


「……まさかとは思いますが、知らないのですか?」


「知らん、そして解せぬ。恵の神が人同士の戦争に手を貸したというのか?」


「本当に知らないわけ? その戦争は人と人同士じゃなくて、神と神同士の戦争よ。むしろ私たち人類は巻き込まれた側。まったく、迷惑ったらないわよ」


「はぁ、フィーナは本当にこの話が嫌いだよなぁ」


すると、タケルはもっと難しい顔をして首をかしげると私たちに、戦争時代のおとぎ話を話してくれと頼んできた。……正直、あまり乗り気はしない。


「長い話になるわ。おとぎ話は後にして、タケルが何処から来たのかを――」


「いや、おとぎ話が先じゃ。というか、そこが一番大切なことじゃ。

さあ、語るが良いぞ人の子よ」


ひ、人の話を遮ってどこまで偉そうなのこの男!! 少しぐらい顔が良いからって調子に乗られちゃ困るわ!! ここは私がガツンと言ってやらなきゃ……!!


「お、おい。そんなに嫌な顔をしないでくれ。我も無理にとは言ってはいない。

……ダメかのぅ?」


「!!!!」


不安そうに、私を見つめるタケル。

ぐっ……!! か、可愛いところもあるじゃない。仕方がないわ、おとぎ話ぐらい

語ってあげても良いかもしれないわね。


「い、嫌だなんて一言もいってないでしょ!? いいわよ、話すわよ!!」


「わぉ、フィーナのやつこの話めちゃくちゃ嫌いなのになぁ。珍しいぜ」


「恐るべし、ですね。魔性の男とでも言いましょうか」


「ちょっと、外野がうるさいわよ!! まったく……」


二人を黙らせると、私は語りだした。

あの、理不尽に始まった神々の戦いのお話を―――――――――――





 この世界には、三人の女神さまが住んでいました。


とても賢い、知の女神。

とても優しい、恵の女神。

とても意地悪な、悪の女神。


悪の女神は、人間たちに意地悪ばかりをしています。

人間が大好きな他の女神は困っていました。

そこで、他の女神は人間たちに力を貸すことにしたのです。


知の女神は、人々に魔法を教え。

恵の女神は、人々に戦う術、スキルを与えました。


これを面白く思わなかった悪の女神は、手下の魔獣を引き連れて

人間たちを滅ぼしてしまおうと、人間の国に攻めて来たのです。

国の人たちはさあ大変。急いで戦う準備をします。


ある人は、知の女神から授かった魔法を唱え。

ある人は、恵の女神から授かったスキルを使って戦いました。


戦いは三日三晩ほど続きましたが、悪の女神は諦めてはくれません。

すると、知の女神と恵の女神が現れたのです。


知の女神は天使を引き連れ、魔獣を倒し。

恵の女神は選ばれしもの、勇者を人の中から見つけ出し、特別な力を授けました。


選ばれし勇者は、凄まじい力で人々を守りました。

知の女神と恵の女神は、力を合わせて悪の女神を追い払いました。

悪の女神が居なくなり、魔獣たちは慌てたように逃げていきます。


世界には再び平和が戻りました。

二人の女神は今日も私たちを何処かで見守っているのでした。





「めでたし、めでたし。っていうのが神々の戦争をもとに作られたおとぎ話よ」


「いや、我は!? 我の名前が出てこないんじゃが!?」


「それはそうでしょ。というか、


「なにぃ!? 貴様、我がどれだけ人に尽くしてきたと思っておる!?」


ブーブーと文句を垂れるタケルは、特に何も思い出した様子はないようで、

思わずため息がこぼれた。


「まあまあ、タケルちゃん落ち着いて。それで? 何か思い出した?」


「いや、まだ何も。じゃが、はっきりとしたことが一つある」


「ほう? 一体何がはっきりしたんだい?」


「少なくとも、我は戦争が始まる前にはすでに眠りについていたと思われる。

もしくは何者かに封印されていたのかのぅ?」


「となると、タケルさんは五百年以上の間生きていたことになりますよ?」


……結局、タケルの妄想に付き合わされただけなようね。

何だか、とても時間を無駄にした気分だわ。


「はぁ、もういいわ。明日はあの鎧たちを引き渡すために王都へ向かわなきゃいけないんだから、もう寝るわよ。ついでに、ギルドからの依頼もあるしね」


そうして、今日はお開きの雰囲気が流れる中、私たちは一つの問題に突き当たった。

誰が、タケルに部屋を貸すのか問題が……!!


「さあ、タケルちゃん。私の部屋に案内するぜ」


「うむ、よろしく頼むぞ」


「「おいおい、ちょっと待て!!」」


思わず声を荒げる私とローラ。

何を抜け駆けしようとしてるのかしら!? 手が速いにもほどがあるわ!!


「ですから!! 淑女たるもの軽々しく男性を部屋に連れ込んではいけません!!」


「でもよぉローラ。じゃあ、タケルは何処で寝ればいいんだよ」


「えぇ? そ、それはぁ……」


「はい、私の部屋で決定な~。うへへへ」


じぇ、ジェニーのやつ、下心丸出しじゃないの!! 

かくなる上は……!!


「こ、このまま私の部屋で寝ればいいじゃない!! 

わざわざ移動しなくてもいいわよ!!」


「ふぃ、フィーナ!?」


言ったわ……!! 言ってやったわ……!!

まあ、最初に出会ったのは私だし!? 

拾ったんだから最後まで面倒見るのが筋ってもんよね!?


「二人とも不純です!! タケルさんを二人に任せていてはどうなるか分かったものではありません!! 私がタケルさんを保護します!!」


「ちょっと!? 心外なんだけど!? ジェニーならともかく!!」


「お前らの中で、私はどんなケダモノになってるんだ!?」


部屋の真ん中で私たちはにらみ合う。

どうやら、この問題を解決するのはかなり難航しそうね……!!


「面倒くさいのぅ。もう、みんなで眠ればよいではないか」


「「「…………え?」」」


思わずタケルを見る。

素朴な皮の服だが、それ故に袖口や襟元のガードが甘く。

とても緩いサイズの服を着ている、顔がとても良い男と、

この狭い部屋で一緒にですって?


「ッスーーー。私、初めてだけど三人一緒なら怖くないわよね」


「私も同感です」


「ケダモノはお前らじゃねぇか!! このムッツリ共!!」


ジェニーに頭をはたかれる。痛みとともに混乱していた頭が冷静さを取り戻す。

…………っは!? 私は何を言っているの!?

お、恐ろしいわ。この男、一瞬で私の正気を奪い去るなんて…………!!


「あー、もう埒が明かねぇ。フィーナの部屋借りて全員ここで寝るぞ。

それでいいだろうが」


「そっ、そうですね。お互いに監視することが出来ますし、

これが一番ベストだと思います」


「そ、そうね」


「話はまとまったかのぉ? では、我はここで寝れば良いのじゃな」


そういうと、タケルは迷うことなく床に寝転がり瞼を閉じた。

ふ、服がめくれてますけど!? タケルさん!?


「……なんか、危機感がねぇな。タケルちゃん」


「はい、何だか疲れてしまいました」


「どうしよう、今日眠れるかしら……?」


その日、私とローラはバッチリ寝不足になった。

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