第5話 ソーニャ、警鐘を鳴らす

「肉便器の候補を、発見しまシタ」

 放課後は、狂気に満ちた一言で始まった。

 声の主は、目の前にいる銀髪美少女ソーニャ。僕の家にホームステイしている。

「どういうことだ」

「ハイ。大助だいすけもご存じのように、日本の高校は全て、肉便器を育成するための機関デスが……」

 まったくご存じではないが、止めていたら話が進まない。

 ソーニャは日本の凌辱ゲームばかりやったため、日本の高校を致命的に誤解しているキ●ガイなのだ。キ●ガイに反論するのは愚策である。

「これを見てくだサイ」

 ソーニャは紙を僕に見せてきた。新聞部が配布している、学校新聞だ。

 でかでかと、剣道着姿の美少女の写真。『我が校の剣術小町、インターハイで大健闘』と書いてある。

(剣崎刀子さんか)

 我が校の剣道部には、部員がひとりしかいない。

 にもかかわらず個人戦で全国ベスト8まで行った、すごい人だ。

「この剣崎さんこそ、肉便器候補に違いありまセン。私が凌辱する立場なら、間違いなくこの人を狙いマス」

「なんで?」

「まず美少女であるコト。そして、琴葉の友人であるコト」

 琴葉――通称『琴ねえ』。僕の年上の幼なじみだ。

 学内一の美人として名高いため、ソーニャから『肉便器になるのは間違いないデス』と太鼓判を押されている。世界一いらない太鼓判だろう。

「美少女は理由としてわかるが……琴ねえの友人だからってのが、わからん」

「凌辱された時、琴葉と友人丼されるからに決まってるでショウ」

「友人丼?」

「親子が一緒にヤラれる『親子丼』の、友人バージョンです」

 まあ、確かに凌辱ゲーではよくあるな……友達同士励まし合いながら凌辱されたり。

 ソーニャは両こぶしを可愛く握り、

「凌辱される時に備え、剣崎さんを特訓してあげないといけまセン」

 そう言うソーニャは凌辱された時に備え、様々な特訓をしてきた。

 たとえば無理矢理フェ●チオさせられた時「大きい……」と言うため、腹話術を覚えたりだ。無理矢理フェ●チオされられない努力をしろ。

 ソーニャは続ける。

「凌辱される剣道女子といえば、お●んこに竹刀しないをつっこまれるのが定番デス」

「まあ……あるな……」

 あれを見ても『痛そう』としか思わないんだけどな。

「だから私が、そんな凌辱でも耐えられるよう――お●んこに竹刀をつっこむ特訓をしてあげようかト」

「お前は鬼か?」

 まさか、ここまでイカれてるとは。

「むろん剣崎さんには嫌がられるでショウ。ですが私は心を鬼にし、多少無理矢理にでも、その特訓をしマス」

「むしろ、お前が凌辱してるじゃねえか」

 通報されたら、確実に捕まる。

「では行きまショウ、大助!」

 ソーニャは駆け出した。行動力のあるキ●ガイほど、タチの悪いものはないな。

 僕達ふたりは、校舎裏の剣道場へ向かった。

 中をのぞく。

 床は板張りで、壁には数本の竹刀が立てかけられている。

 道場の中央で、剣崎刀子さんが一人で素振りをしていた。日焼けした褐色の肌。切れ長の瞳。剣を振るフォームはとても美しい。

「凜々しい人だな」

「確かに――凌辱されたとき、竿役さおやくから『お前は竹刀より、チ●ポ握ってる方がお似合いだぜ!』と言われそうデスよね」

「『確かに』の意味がわからん」

 そんな日常会話をしていると、剣崎さんが僕達に気付いた。

 こちらへ歩いてきて、

「ん? 部活の見学か?」

 ソーニャは首を振り、

「いえ、あなたは狙われていマス。それをお伝えしたクテ」

「『狙われている?』確かにライバル高からは、狙われる立場だが……」

「いえ、狙われているのは、男から性的な意味でデス」

 剣崎先輩は、手に持った竹刀を示し、

「大丈夫だ。私の剣術で男など一掃できる」

「ねえ大助、この人、凌辱の前フリとしか思えない発言してマス!」

 まあ確かに、武道自慢の女子って『男にはかなわねーんだよ!』とか言われて凌辱されがちだな。

 剣崎さんは苦笑し、己の褐色の肌を見て、

「それに、私はロードワークしすぎで、かなり日焼けしてしまった。どうせ狙うなら、君のような色白な子を狙うだろうよ」

「貴方は魅力的デスよ――それに褐色の肌はザーメンえしマスから、中出しのリスクが低くなりマス」

 ソーニャの妄言もうげんに、剣崎さんは絶句した。

 僕に視線を向けてきて、

「こ、この子……何を言ってるんだ? 中出しのリスク??」

 ソーニャが言いたいのは、褐色の肌と白いザーメンのコントラストが鮮やかだから、中出しよりぶっかけられる確率が増え、妊娠リスクが減るということだろう。一瞬で理解できた自分が恥ずかしい。

「ザ、ザーメンって、精子のことだよな……」

 剣崎さんは頬を染めて、ソーニャに言い放つ。

「初対面の私に精子の話なんて、どうかしているのか!?」

「どうかしているのは、私ではありまセン」

 ソーニャは豊かな胸に手を当て、真っ直ぐな瞳で、

「肉便器を育成することが目的である、日本の高校の方デス」

「どうかしている!!」

 剣崎さんは道場を飛び出し、ソーニャから逃げていく。

「あっ、待ってくだサイ! お●んこに竹刀つっこませてくだサーイ!!」

「ひぃぃいいいいい!!」

 剣の達人であろうと、狂人は怖いらしい。

「私の警告は、理解されませんでしタカ」

「そうだな」

 ソーニャは肩を落とし、苦い顔で、

「例えて言うならバ、まるで私は……」

(こいつの事だから、どうせエロゲーの例えをするんだろうな)

 そう確信していると、ソーニャは言った。

「古代中国の名臣・屈原くつげんのようデスね。屈原は王に危機を訴えますが受け入れられなかった。結局、国は滅ぼされ、屈原の警告は現実になりましたカラね……」

「え、何そのインテリっぽいたとえ」

 ソーニャは「はっ」と鼻で笑い、

「しょせん貴方が理解できるのは、エロゲーの例えだけなのデスね」

「うわ、めっちゃ腹立つ!」

 僕はソーニャを軽く小突いた。

 ソーニャはイタズラっぽく笑う。だがすぐ暗い顔に戻り、

「冗談はさておき……警告は無視されまシタ。剣崎さんのために、私にできることは、もう……」

「諦めるのか?」

 だとしたら、嬉しいのだが。

 だがソーニャは首を振り、壁際に立てかけられた竹刀を見て、

「せめて、お●んこに突っ込まれるであろう竹刀の先端を、清潔にする事にしマス」

「異次元の対処法!」

 そして。

 翌日から、ソーニャは剣道場に毎日通って、全ての竹刀の消毒を始めた。

 イカレてるけど、ひたむきなヤツなんだよな。

 結果ソーニャは、剣崎さんと仲良くなった。休日に、琴ねえも交えて三人で出かけたりしている。

 僕は夕食の席で、ソーニャと話した。

「友達ができて、良かったな」

「それはイイのですが――」

 ソーニャはうつむいて、箸を止めた。

「私が肉便器になった時、琴葉、それに剣崎さんと、三人で友人丼されてしまいマス……」

 やはり、ズレまくった心配をしている。

 ソーニャは夕食をじっと見つめて、

「そう思うと不安で、食事も喉を通りまセン」

「無理にでも食べないと、身体に悪いぞ」

「そうデスね」

 ソーニャは、健気に笑って、

「いずれ私――凌辱されながらも、ザーメンを喉に通さなきゃいけないのデスからね」

「そうだな……」

 僕は病人に接する気持ちで、優しく笑った。





後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします


あと、ファミ通文庫から発売中のラノベ

『朝日奈さんクエスト〜センパイ、私を一つだけ褒めてみてください〜』

原作を担当した漫画

『香好さんはかぎまわる』

も、よろしくお願いします




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